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※ネタバレ注意!

ポーはホラーと思っていなかったのでは?

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫
ずっと読んでみたかった一冊です。シリーズで二冊あり、非常に気に入ったので二巻も必ず読もうと思いました。傑作選の名の通り、素晴らしい作品でした。
この書評ではネタバレチェックを入れました。自分の考えをしっかりと書きたくなったのです。書評の前半では内容を紹介し、後半に自分の意見をまとめてみます。ネタバレ的な書きかたは避けますが、内容に触れます。気になる人はスルーして下さい。

十四篇の作品(小説:十一本、詩:三本)と、作品解題、ポーの生涯、年譜、訳者あとがきが収録されています。特に、作品解題以降に八十頁もの枚数を割いていることが特筆すべき点です。ポーの小説や詩の韻のふみ方、凝った作りなどは研究者じゃないと到底書けないものです。年譜や生涯に関する記述も、微に入り細に入りです。
世界的にトップクラスの有名小説家について、この一冊で得られる情報量は非常に多く、さすが現時点でもっとも新しい編さんですね。

作品からも多くの驚きを得ました。
黒猫を読んだのは二回目の気がしますが、一回目があまりにも昔で、記憶が中途半端になっていました。本著を読んで頭のなかの世界観が一新され、こんな話だったんだとおおいに刺激されました。
アッシャー家の崩壊も素晴らしかったですね。心の声がうっひゃーと裏返っているような気持ちで読んでしまいました。

初めて読んだ作品も、非常に刺激的でしたね。最高です。
赤き死の仮面は伝染病もので、人間の業の深さと疫病の無慈悲さの対比がなんともいえない絶妙なバランスで編まれていました。ウイリアム・ウイルソンの狂気は、ドリアングレイの肖像に強く影響したという作品解題に納得します。
モレラ、早すぎた埋葬、リジーア、跳び蛙。
どこかで読んだような気がするものが多く、それはつまりポーの作品がいろいろな作家に影響を及ぼしたということであり、とんでもない作品集だということが分かります。

さて、以下に自分の意見を書きます。


> ────── <以降にネタバレ気味に書きます> ────── 


ふと気がついたのです。ポーが生きていたのは二百年近く前のことなのです。日本は江戸時代ですよ。Webで調べたら、大塩平八郎の乱がありました。中国ではアヘン戦争。つまり日本の文豪が活躍するよりもずっと前のちょんまげ時代だったのです。

一番気になったのは、死がおそろしく身近にあるということです。これはフランケンシュタインや嵐が丘を読んだ時にも気がついたことです。驚愕の事件が起こると、事件に出合った人は心身に支障をきたして病に伏せってしまい、ともすれば死んでしまうのです。登場人物が十代、二十代で自然死してしまうことも頻繁に発生します。ここが現代と一番違う点です。

ポーが生命というものに強い興味を示したのは、自然なことだと思うのです。この世とあの世の境界のあいまいさを取り扱った作品が多いのも、偶然ではないでしょう。ショックで倒れたら、気つけ薬でワインを飲ませる場面があります。そういえば、ホームズもよくコニャックを飲ませていたよなと思いを馳せてしまいます。
そうなのです。医者は来ても観察するだけで、薬はほとんどないし、まして手術なんかありません。治すためにはひたすら静養という雰囲気があるのです。

登場人物たちが死に近いのは、医療が十分でない当時は当たり前だったのでしょう。だから、死んだと思ったら生きていたなんてことは起こりえる世界だったのでしょうね。つまり ────── ポーは怖がらせようとして生死の境目を書いたのではなくて、皆が思っていることを形にしただけではないでしょうか。
それを現代の常識に当てはめると、考えにくい奇妙な事象としてホラーっぽく聞こえるのかなと思いました。

著者の関心は、生きるか死ぬか、結婚するかどうか、子どもが生まれるかどうか。そんな生きていくだけで精一杯の事柄ばかりです。突拍子がないように見える展開も、こうして考えると著者の常識では当たり前の不思議な事象の一つとは考えられませんか?
そんなことを思いつつ楽しみました。

現代小説の根幹を担っているレジェンド作品です。とても価値のある一冊ですよ。
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  • 掲載日:2023/04/03
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この書評へのコメント

  1. そうきゅうどう2023-04-08 22:51

    >赤き市の仮面

    赤き死の仮面、ですね(細かくてスミマセン)。

  2. たけぞう2023-04-09 09:04

    >そうきゅうどうさん
    あ、ホントだ、ご指摘ありがとうございます。直しておきました。赤き市、、、別の意味になってそれはそれで面白いですね。

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