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「おおぜいの人々のがやがやとおしゃべりする声」が聞こえる

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
ムーンタイガー
クローディアは歴史家だ。彼女は老齢で、病床についている。もうよくなることはない。
ここからクローディアの人生を振り返る。
文章は、三人称視点と一人称(クローディア)視点とが混ざりあい、ときには、同じ出来事を二つの文体で繰り返したりもする。また時系列が入り混じっていて、いったいいつの話だっただろうと、戸惑う。
時々、意識が混濁するクローディアの今を表しているように感じる。


思わせぶりな言葉や固有名詞が混ざるけれど、兄妹のこと、愛人のこと、子どものことなど、彼女の人生の全体像は、最初からすっかり見えているように思っていた。
はっきりものを言う彼女だから、彼女の人生は声に出して語られたものがすべて、と決めつけていた。彼女の周りの人々も、読者の私も。
あえて口をつぐんで語らなかったことに、最も大事なその人自身が潜んでいるかもしれなかったのに。
彼女は孤高の人だ。独立心があり、自信家。気位が高く、いじわるだ。凡庸さを見下して(わが子にさえも!)その態度を隠さない。
最後まで読んでも、実際に彼女のような人に会ったら、私はできるだけ距離を置きたい気持ちは変わらなかったけれど、その中身はずいぶん変わった。彼女は、類まれな孤高の人だ。


第二次大戦下には、通信員として従軍してエジプトにいた。
戦後、ロンドンにいた彼女は、思いがけない形でハンガリー動乱が身近なものになった。
その前後も、戦争、戦争、戦争、だ。
クローディアは「歴史は混乱--死と混乱と荒廃なのだ」といったが、それ以前に思い出すのは、彼女が十三歳の時のエピソード。
歴史の授業中に「(過去の時代のなかの)おおぜいの人々のがやがやとおしゃべりする声」が、彼女には聞こえていたこと。
歴史は戦争の連続だけれど、一方で、おおぜいの人々の声の重なりでもあるのだ。
病院のベッドで眠る彼女は、人生最後の「歴史」の本を書いているのかもしれない。
それは、どの時代のどの地域の(どの戦いの)物語でもなくて、自分自身の生涯の物語。
いま、老女クローディアは、過去から、いくつもの声を聞いている。


  • 掲載日:2026/04/23
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この書評の得票合計:13

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この書評へのコメント

  1. hacker2026-04-23 09:45

    早々と読まれたのですね。この作家のことは教えてもらって、感謝しています。ただ、この作家は児童文学から出発したせいもあるのでしょうが、あまり翻訳が出ていないのは残念です。

    ところで、書評を拝読していてふと気づきましたが、名前をすっと「ペネロペ」だとばかり思っていたのですが「ペネロピ」なのですね。なんせペネロペ・クルーズはお気に入りの女優の一人なので、完全な思い込みによるものです。私の以前のレビューは直しておきました。

  2. ぱせり2026-04-23 13:59

    hackerさんのおかげでこの本に出会えました。ありがとうございました。全く違う物語なのに、ところどころ『ノアハム・ガーデンズ』の雰囲気を思い出していました。(航行時代のクローディアが、歴史の時間にたくさんの人々の声が聞こえることに気が付くところとか……)
    図書館の蔵書を検索したのですが、ほんと、翻訳少ないですね。わたしも少しずつ読んでいけたらいいな、と思います。まずは、近々、『犬のウィリーとその他おおぜい』を、と思います。楽しみです。

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