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海原に浮かぶ木っ端のような舟にあって、少年の目に老人は、海神のように、雄々しく、神々しく、輝いて見えたことだろう。

老人と海(新潮文庫)
新訳である。
そのためか、巻末の解説、訳注、作者略歴が、とても充実している。

ヘミングウェイ初心者のわたしは、作者略歴から読み始めた。

生年は、1899年。川端康成と同じ年だ。
父は外科医でナチュラリスト。少年時代から、父親から狩猟や釣りの手ほどきを受けた。
18歳で新聞記者になったり、第一次世界大戦のとき救急車要員に志願してイタリアで大ケガしたり……行動的で、じっとしていられない人だったようだ。
「老人と海」は、51歳のとき、1950年の12月に書き始めたのだそうだ。
このとき、ヘミングウェイは、30歳も年下の女性と大恋愛中だったという。
「老人と海」執筆中の六週間、キューバの居宅に若い恋人を招いていたとか。
夫人がいるのに……

さて、本編の小説。

もっとも心惹かれたのは、老人と少年の、強く温かい心の結びつきだった。

少年は、5歳の時から老人の舟に乗っていた。
遊びではない。家族のために稼ぐ必要があったのだ。
老人は少年にとって、漁の、人生の師匠だった。
海原に浮かぶ木っ端のような舟の上にあって、少年の目に老人は、海神のように雄々しく神々しく、輝いて見えたことだろう。

老人は、かつては町いちばんの漁師だった。
町のみんながそのことを認めている。
しかし、いまは運に見放された老いぼれた漁師だ。
いまでも海に出ているが、もう84日間も一匹もとれない日が続いている。
運を呼び込む力が、老人には、もうないということだ。

老人は、陸にいるときは、ただのボケ始めたじいさんだ。
投網を売ってしまったことを忘れたり、炊いてもいないご飯をあるといったり……
少年は、そんな老人に上手に話を合わせ、かいがいしく世話をする。

85日目の漁に出る老人のために、着るものを整え、いっしょに夕食を食べ、温かく眠れるように毛布をかけてあげる。
老人の大好きな、野球の、ヤンキースの話をする。
朝になれば、漁のための荷物を老人と一緒に老人の舟に運び、餌魚とイワシの用意もしてあげる。

「じゃあ、運が向くようにね、おじいさん」「おまえもな」

送り出す少年は、まるで老人の保護者のようだ。
心配だから、ほんとうはいっしょに行きたい、しかし、稼ぐためには別のたくさん釣れる舟に乗らなければならない。

一晩漂流して、老人は港に帰り着いた。
その舟には、大きな獲物がくくりつけられていたが、頭と背骨と尾びれしか残っていなかった。
朝早く、少年は、老人の小屋へ行き、老人の手を見て、泣き出してしまう。
赤むけになって血だらけになった手。
大魚との死闘、サメとのたたかい……、老人の85日目の漁のすべてを少年は悟ったのだろう。

少年は、老人といっしょに飲むコーヒーをとってこようと、歩き出した。
店に行くまでの道、ずっと泣き通しだった。

<このときの少年の気持ちを20字以内で述べよ> 国語の試験問題にありそうだ。
少年の身になって答えよう。

「言葉になんかできねえよ。されてたまるかよ!」

わたしが少年の母親だったら、少年の肩を抱いていっしょに泣いてしまいそうだ。

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  • 掲載日:2020/11/06
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