新R-18文学賞受賞のデビュー作です。受賞作は、第一話の「ありがとう西武大津店」です。その話を軸にして、六話の短篇集にふくらませて作品の発行となりました。その時に、天下を取りにいくという題名になったと思うのです。たぶん編集さんの意見なのでしょう。成瀬というキャラクターの強さにふってしまった題名で、わたしはちょっと違うんじゃないかなという意見です。
この作品の主題は、成瀬の個性の強さとそれを取り巻く周りの人とのバランスの危うさだと思っていて、人間関係の難しさが行間から伝わってきます。だから、天下を取りにと書かれてしまうと、キワモノの人を見る立ち位置になるんじゃないかと危惧しています。ゆるやかに揺れながら読む作品ではないかなというのが自分の感想なので。
成瀬の個性は、ちょっとデフォルメが大きめで、漫画的な書かれかたをしていますが、大なり小なりこういう要素を持った人はいるので、半歩引いた独特のリアル感があるんですね。生きづらさとは違います。いじめでもありません。でも、そういう危険が感じられる場面もあります。
自分の芯を持つことは大事と言われる一方で、他人に合わせないと浮いてしまうという矛盾した人間関係は、思い当たる人も多いでしょう。この危うさが作品の主題なのです。
第一話、ありがとう西武大津店。R-18受賞作です。
西武デパートの滋賀大津店は、四十四年間も運営してきましたが、惜しまれつつも営業を終了することになりました。子どもの頃からデパートに親しんできた人たち。島崎みゆきもそんな一人です。あるとき、幼なじみの成瀬あかりが変なことを言い出します。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
「夏を西武に捧げるって?」
「毎日西武に通う」
カウントダウンの日数ボードがデパート入口に出現し、ローカルTV番組が毎日そこから中継することになりました。成瀬は、その画面に映りこむというのです。なにかするわけではなく、たんに立っているだけです。西武ライオンズのユニフォームを着て、西武に対する愛着を伝えようとするのです。
どう扱っていいか、困るアクションです。微妙に常人離れしているところが成瀬のキャラクターです。島崎は成瀬のことが嫌いではなく、ついたり離れたり、適度な距離をとって西武デパートで頑張る成瀬をサポートしていくという物語です。
第二話も、島崎と成瀬の凸凹コンビ話です。M-1出場という突拍子もない思いつきにつきあっていく物語です。
わたしは、第一話と第二話が好きでした。三話以降は、語り手が島崎以外に移ったことで、成瀬のキャラクターにふりすぎた感があり、ラノベみたいな非現実感が出てしまったのが残念でした。でも、書こうとする主題は好きなので、次回作に期待したいと思います。きっと、著者自身も手探りで書いたんだろうなと思える一冊でしたし。


- 掲載日:2023/12/28
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