岸本佐知子さんは、オモシロエッセーの名手です。
今回はどんなお話かなと期待して手に取りました。
思い出のある街を再訪するお話でした。
東京から神奈川にかけての海沿いの街が多く出てきます。
わたしも神奈川の海方面に長く住んでいましたので、
土地勘のある話が多くて気持ちが上がりました。
ただ、昔のものがなくて寂しいとか、さびれていてわびしいなどの想いとかを
強めに感じてしまいました。
ノスタルジックなお話が多いので、引越しの多い人は
胸にくるものを感じながら読めると思いますよ。
ふと思ったのですが、自分が住んでいる街で古い店が新しい店に替わると、
寂しい気持ちと次の店への期待が入り混じりませんか?
そして、新しい店のある風景にすぐに馴染んでしまい、
便利になったよねと気持ちが切り替わっているのではないでしょうか。
ノスタルジックとは、自分が離れてしまった場所や、
取り戻せない原風景など、なくしてしまうことに対してせつなさを
感じているのではないかな、そんなことを考えてしまいました。
著者は実際にその場所に行き、話を聞き、写真を撮ってそのときの気持ちを
章の一つ一つにまとめています。
横浜という章があります。
自分の生まれが、横浜の寿町というドヤ街だと思い込んでいて、
ワイルドさをちょっぴり誇りに感じていた著者。
お母さんが著者がそんなことを書いている記事を読んで、
違うわよ、長者町だよと連絡してきました。
そちらのほうが雰囲気がよかったみたいなんですよね。
住まいはJRの桜木町近くの運河沿いにある社宅なので、
どちらの産院も近いエリアなのですが。
JR鶴見線の海芝浦も出てきます。やっぱりね。
鶴見線に乗ると、首都圏とは思えない独特の異空間感が味わえて、
そのラストステージを飾るのにぴったりの駅なのです。
京急のYRP野比も、ずっと気になっていました。
三浦半島の終点手前の駅で、アルファベットの駅名は個性的です。
この本で、ヨコスカ・リサーチ・パークという企業の研究所エリア名を
冠していると知り、すっきりしました。
YRPの謎を探るべく、そのために出かけた著者。
出不精なのでなかなか大変だったみたいです。
OL生活が合わなかった黒歴史時代にも触れられています。
とても迫ってくる文章で、興味深く読みました。
こうして才能が開く場を見つけられて、本当によかったと思います。
人生はいろいろだなという思いを新たにしました。
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