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実家の道具商を継ぐための奉公先を首になり、実家にも居づらくなった寅蔵。東海道五十三次の江戸を目指し、骨董商の世界へと辿り着く。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
どら蔵
 大阪道具商の放蕩息子どら蔵こと寅蔵は幼い頃、母から受けた手ほどきにより品物の目利きに長けていた。奉公先龍仙堂が扱っていた香合をそうとは知らずに贋物と言ったことで龍仙堂を追われ、実家からも出ていくしかなくなった。目指すは江戸、目利き自慢のどら蔵も時に騙され借金を作り、富山の薬売りと親しくなる。薬売りからヒントを得て手紙商いを始めるが。

 蔵の中を検めずに値をつける入れ札や、逸品ぞろいの売り立て会で競り落としていく緊迫感。富山の薬売りの相手の立場を慮った販売方法、大塩平八郎の乱など物語の展開に引きつけられる。魅力的な登場人物はもとより、どら蔵の人柄にも好感が持てる。たとえ、騙されようとも相手を憎むことなく楽観的に前向きにチャレンジしていく姿勢、相手の言動に心中で鋭いツッコミを入れる様子も笑える。大阪言葉が物事を暗くとらえることなく、ホワーんと明るい雰囲気を醸し出しているのかもしれない。

 どら蔵も好感が持てるが、薬売りの久太郎が印象的だった。相手の話に耳を傾け、共感しつつ新たな薬を勧めるが、使った分の薬代を受け取るのみ。さらに、国元の妻が病にかかったという知らせを受けると薬売りの株を売り国へ帰っていく。妻の苦労を察しての行動が、江戸で働く中でも変わらない軸を持った人物なのだと思った。

 かつて実家松仙堂の蔵にあった一休宗純師の書「薫風自南来」と対の「殿閣生微涼」が出品されたとき、値がどんどん上がっていく中でどら蔵がどうしても自分のものにしたかった理由や、ない袖をどう振るのか贋物ではなく、同じ書がなぜ存在するのかがわかった時、この小説のいや著者の凄さがわかったような気がした。
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  • 掲載日:2026/05/03
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