タイを舞台にした七つの物語。
若者が主人公の物語が多いのだが、抗うよりも諦めている。なんだか他人ごととは思えなくて。
若い人たちは、一体この先、どうやって生きていくのだろうか。成長とともに、彼らの身近にいるあの大人、この大人の姿になっていくのだろうか。
たとえば、『カフェ・ラブリーで』の少年少女たちのように。
そこで暮らすことに有利な立場にあるもの、そこにおもねろうとするものが、暮らしにくい場所でもくもくと暮らしつづける相手を踏みつけていく。
そのことに対して湧き上がってくる恥ずかしさをを振り払うために、「彼らは醜い、滑稽だ」と決めつけようとしているようだ。『徴兵の日』の二人のことみたいに。
決めつける側にも、決めつけられる側にもなりたくないのに、追い込み、囲い込まれていくみたい。どちらも同じくらい惨めだ。
この閉塞した世界で、焼き付けられるように、心に残る美しい光景がある。
たとえば、暗い海を泳いでいく豚の姿。ピンク色の鼻をあげて、頭には、燐光が青い星の王冠のように輝いている。 ~『ガイジン』
それから、世界一美しい、と感じるバンコックの夕陽。だけど、その美しさは、ひどい公害が、空の色を引き出して、そうして生まれたものなのだ。 ~『カフェ・ラブリーで』
どちらも、七つの物語の主人公やその周りの人々の姿のようだし、そういう人々を掬い上げようとする、これら物語そのもののようだった。
ことに、一番最後の物語『闘鶏師』のラストシーンを読みながら、『ガイジン』のピンクの鼻を掲げて暗い海を進んでいく豚の姿を思い出していた。
最後に、この場面を思い出せたことがよかった。
泳いでいきな、どんどん泳いでいくんだよ、そのピンクの鼻を挙げて。頭には青い星の王冠が輝いている。お守りみたいに。
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