リュパン・シリーズの長編、第十三作目。この長編もここ3作登場のベシゥー刑事と組んでの事件解決をする。
パリでリュパンことラウール・ダヴナックが帰宅すると若い女性が、相談事があると待っていた。彼女の話を聞こうとしたときにベシゥーから電話がかかってくる。ベシゥーが言うにはラディカルと言う村で殺人事件があり、その被害者は失踪した若い女性の姉の夫、つまり義兄で、彼女を探しているうちに銃で撃たれたのだと言う。ベシゥーはラウール、即ちリュパンのこれまでの手腕を買って一緒に事件を解決しようと持ち掛けていた。その失踪した若い女性こそが、パリにラウールを訪ねて来たカトリーヌだった。彼女は電話の内容を聞いて、自分のせいで義兄が殺されたと思いショックで話が出来なくなる。ラウールは、彼女をラディカルまで送り届け、ラディカルで村に泊っているベシゥーの許に向かった。翌朝、ベシゥーと事件のあったバール・イ・ヴァ荘に向かう。ベシゥーは、警察の捜査で呼ばれたのではなく、肺炎の予後の療養のために当地に滞在し、バール・イ・ヴァ荘に住むカトリーヌ・モンテシユーや、その姉のベルトランド、ベルトランドの夫ゲルサンと親しくなったのだと言う。この屋敷の料理女シャルロットとは懇ろな関係になっていた。ベシゥーは事件の目撃者で、捜査に来た予審判事や検事代理、それにラウールにゲルサンの殺害の模様を話して聞かせた。前日の朝、カトリーヌが失踪すると皆で手分けして彼女を探したが、午後3時頃に休憩した後、ゲルサンは屋敷から見える鳩舎に向かった。屋敷の敷地にはセーヌ河の支流であるオーレル川が流れているが、その川幅が太くなった箇所に島があり、ゲルサンはそこにある鳩舎の戸を開け、撃たれて死亡したのだ。屋敷からベシゥーは、その様子を目撃していた。ゲルサンが倒れるとベシゥーはすぐ鳩舎に駆けつけたが、誰もいない。屋敷から鳩舎まで見通しはよく、犯人がどこに消えたのかもわからない。拳銃だけはゲルサンの側に転がっていた。鳩舎には地下室があるが、揚げ蓋を開けてそこを確認しても誰もいなかった。犯人は煙のように消えてしまった。ラウールはその話を聞いてすぐ何か推理したようだが、ベシゥーには理解できないことだと言って、自分の推理を明かさない。
ラウールの関心はそれよりも、カトリーヌの相談ごとだった。彼女はやっとそれをラウールに打ち解けた。まずラウールのことは、ベシゥーから事件解決能力が高いと聞いて知ったという。彼女と姉は幼い頃からこのバール・イ・ヴァ荘に祖父ミシェル・モンテシユーと暮らしていた。祖父は、錬金術に凝る変人だったが、暮しは楽しかった。祖父は2年ほど前に亡くなった。祖父自身も晩年は、このバール・イ・ヴァ荘がある地所からは離れパリでカトリーヌと暮らしていたが、祖父の死後久々にこの屋敷を訪ねると、庭の中の自分のお気に入りの場所だった三本の柳が、自分の記憶と違う場所に移動しているのだと言う。ラウールはこの話に非常に関心を持った。ラウールの捜査で、木こりのドミニックの倒木のよる事故死、その母のヴォーシェル婆さんの不可解な死、そしてミシェル・モンテシユーが遺言を遺さず死んだこと、そのことと殺されたゲルサンの関係、関係者の周囲に出没する大きな帽子を被った男の存在などが明らかになってゆく。邸内からは金の粒が入った壺が発見され、事件はミシェル・モンテシユーの秘密と莫大な財産が絡んでいることがわかる。
不可解なゲルサンの死は冒頭で話題になるが、その後の捜査は殺人事件ではなくカトリーヌの体験した三本の柳の移動の謎に焦点が移る。冒頭の殺人は、三本の柳の移動に関係はあるし、煙のように消えた犯人の謎はきちんと解明される。ラウールが殺人のトリックにどう気づいたのかは一応消去法で説明されているが、自分には単なる思い付としか思えず大きな難点である。逆に三本の柳の移動についての捜査はそれなりに描写されているが、それに伴う関係者の死も、最後の説明を読むとあっさりとしていて、これが真相だと言われてもあまり説得力がない。本書の主題は人の死よりも、題名になっているバール・イ・ヴァ荘の在り方と宝の行方にあり、その辺はきちんと描かれている。著者はそちらに注力したのだろう。そうだとすると、殺人事件を無理やり発生させているが、そんなことは書かずに、宝探しの話だけでも良かった気がする。犯人は度々、煙のように消えるのだが、その消失方法も単なる犯人のかつての仕事だけで説明されており納得できない。
ベシゥー刑事は短編集
「バーネット探偵社」で登場したパリ警視庁の警部だったが、前作
「謎の家」では巡査部長に、本書では保安課の班長になっている。本書でも「バーネット探偵社」で解決した事件や「謎の家」の事件について冒頭で触れられているので、これらの事件の後で起きたことは明白だが、そうだとすると彼は次第に警視庁内で立場が悪くなって、降格に次ぐ降格をされたとしか考えられず、とっても気の毒。実際、前2作では警視庁の刑事の立場を維持していたが、本書では病気療養の休暇中ということもあってラウール、つまりリュパンに頼り切り、扱いも手下同然となっている。ラウールの思い付としか考えられない推理に、異を唱えたり自分の推理を披露したりすると阿呆だ、馬鹿だと罵られ可哀そうである。だが、本書の最後では、恋愛関係においてきっちりとベシゥーがラウールに優位に立っていた。著者なりの配慮だろうか。


- 掲載日:2025/05/13
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