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一人の少女の成長譚としても、ミステリーとしても読むことができるが、現代を生きるカナダ先住民の苦悩や悲しみ、そして希望をも、静かに、それでいて鮮やかに描き出す作品でもある。

モンキービーチ
著者は1968年カナダのブリティッシュコロンビア州西海岸キタマート村生まれ。
先住民族「ハイスラ族」とヘイルツク族をルーツにもつ。
本作Monkey Beach(2000)は著者2作目の長篇で、カナダの中高校や大学で教材として用いられ、ドラマ化もされているのだそうだ。

時は1989年。
物語の舞台はカナダの西端ブリティッシュコロンビア州に実在する先住民ハイスラ族の居留地キタマート村。
ハイスラ族の娘19歳のリサは、一つ年下の弟ジミーが乗った漁船が行方不明になったことを知らされる。
リサは船が消息を絶った夜にみた夢を頼りに、ジミーの姿を求めてスピードボードで単身モンキービーチをめざすのだった。

弟を捜す旅は、やがてリサ自身の記憶をたどり、一族の、そしてハイスラ族の歴史へと広がりをみせる。
同時に、彼女自身が自分の内面と正面から向き合う旅になっていくのだった。

ハイスラ族の文化や世界観を伝えながら、リサに深い愛情を注いでいくれた祖母のマ・マ・ウーとの思い出。
リサのよき理解者だったミックおじさんとのあれこれ。
退廃的ではあるものの自由気ままな生活をおくっていたミックおじさんは、キリスト教の先住民寄宿学校に入れられ、その反動からアメリカインディアン運動に参加していた過去を持っていたのだった。

カラスと心を通わせる少年。
不吉なことの前触れのようにリサの前に現れる小男。
折々に感じる霊の存在。
クマやアザラシやラッコが身近にいて、ベリーを摘みオヒョウや蟹を獲る生活。
カナダ北西海岸の先住民族の暮らしは、北海道の原風景と重なる部分も多く、その伝承は時にサハリンの先住民族ニヴフに伝わる昔話を思い出させもする。

現実と思い出と伝承と空想の境目が曖昧で、どこか異世界に迷い込んだような気にさせる一方で、美しくはあるが時に猛威を振るう自然と対比するかのように描き出される差別や偏見、貧困やドラッグや性暴力といった人的暴力と負の連鎖が否応ない現実を突きつけてくる。

一人の少女の成長譚としても、ミステリーとしても読むことができるが、同時に現代を生きるカナダ先住民の苦悩や悲しみ、そして希望をも、静かに、それでいて鮮やかに描き出す作品でもある。

  • 掲載日:2026/04/06
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