日本には数多くの美術館があり、毎年、趣向を凝らした特別展なんかで楽しませてくれる。
公立、私立の別はあり、館の規模もさまざま。
「おっ」と注目してしまう特別展を毎年のように開催する館もあれば、大して動きが見えない館もある。
興味深い特別展が毎年開催されるのは大都市圏ばかりで、地方に住んでいるとわざわざ遠くまで行かなければしっかりとした美術鑑賞ができない現実がある。
毎年、特別展のスケジュールを見ては溜息ばかりだった。
でも、大都市圏だからといって、美術館に足を運ぶ人ばかりではなく、美術館に行く人は相当限られていることを知った。
「なんともったいない」と思いつつも、人気の特別展を開催している館の混雑具合を思うと、足が遠のくの分かる気もする。
美術館に行かない理由は、人それぞれだと思う。
時間がないということをあゲル人も多いだろう。
だからこそなのか、本書のタイトルは“忙しい”を冠している。
しかしながら、この“忙しい”という理由は現実的ではなく、実際のところ余暇は以前より増えていることが提示されている。
ワークバランスが叫ばれてきた結果は、知らぬ間に余暇を増やすことには繋がっているらしい。
ただ、余暇を美術鑑賞に向けていないだけのようだ。
それも働く世代ほどその傾向が強く、美術館に足を運ぶ世代は就業以前・以後世代の率が高いというデータも示されている。
学生時代には美術館に足を運んでいた世代が、働き出すとそれをやめ、退職後に再び美術鑑賞を楽しむようになる。
そんな実情を筆者は“もったいない”とする。
一時期ビジネスマンの教養としての美術鑑賞を推奨する本が増えたことにも触れる。
しかし、そんな堅苦しく構えずに、美術を楽しむこと、楽しみ方を本書は紹介する。
本書は全5章からなるが、肝は第5章であると「はじめに」の中で明記される。
「手っ取り早くそこだけ読んでもらっても構わない」とするほど、著者が伝えたいことが詰められている。
第5章は「結局、美術館に行く意味って何?」である。
ざっくりまとめると自分を取り戻す場所、ということだろう。
タイムパフォーマンスの呪縛から脱却でき、さらに静かな環境下で精神を集中させられる場所。
加えて忙しい毎日に余白を作ることができるとも説く。
そして、家庭や職場以外の人との交流の場所である“サードプレイス”とは異なって、一人でゆったりと過ごすことで自分を取り戻す“フォースプレイス”の場所としての美術館を薦める。
世の中にはいろんなことを推奨する情報で溢れている。
もちろん、全てに傾注する必要はないし、何を選択するかは個々人に委ねられている。
美術鑑賞もそうだろう。
本書のデータからすると、私なんかは比較的美術展に行くほうのようだ。
ただ、地方の片田舎に住むため、魅力的な美術展が目の前に転がり込んでくることはあまりない。
でも、東京や大阪、京都など、さまざまな大規模展覧会が次々に開催されると、目移りして困りそうだし、そもそも資金難に陥りそう。
本書は、もっと気軽な美術鑑賞を推奨する。
気軽に、余暇を使って自分を取り戻す場所としての美術館、そしてその手段としての美術鑑賞。
そんな気軽な気持ちで、地方の美術展も楽しんでみようと思う。
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