36編のショートショート集。著者の三冊目のショートショート集と言うからかなり初期の作品と言える。「悪魔のいる天国」は、本書全体につけられた題名であり、この題名のショートショートはない。全体的に星新一的なブラックユーモアのある作品が多く、「悪魔のいる天国」は適切な題名である。
本書も久々に手にした作品であるが、最初に手にした時から記憶している印象深い作品が「ゆきとどいた生活」である。2050年のある朝、80階建てビルの72階に住むテール氏の部屋で物語が始まる。テール氏は自動機械で起こされ、自動機で着替えさせてもらい、シャワーまで浴びせてもらう。朝食が出されテール氏は拒否のボタンを押さなかったのでそのまま下げられる。自動機械がテール氏を繭のような乗り物に乗せる。その乗り物は電波を発信し続け、会社まで自動搬送される。会社は出勤時間でごった返しているが同僚が乗り物から出てこないテール氏を見つけて話しかける。彼の顔色が悪いのだが・・・。2050年はまだ未来だが、人間の性向からするとこんな未来もあり得ると言う、まさにブラックユーモアな作品。本書も中学生の時に読んだのだと思うが、この作品には「へぇ」とうなったものだった。
本書で注目を惹くのは科学を応用したショートショートである。「無重力犯罪」はロケットに発火装置を仕掛けたという男の話。彼は、打ち上げ後に警官から不審者として尋問されそのことを正直に言う。だが現場は宇宙のかなた、証拠はないと男は断言する。そこにロケットから連絡があり犯罪は防がれたと言われる。男の目論見は失敗するのだが、本書のネタは「対流」と「重力」と言う科学現象である。「情熱」は男女2組を乗船させ三代目の子孫が目的地に到達すると言う超大型宇宙船の話。実際にこの手の宇宙船は、最も近い恒星への到達手段として科学的に検討されている(
「人類は宇宙のどこまで旅できるのか」参照)。研究所でその超大型宇宙船が完成した頃、逆に宇宙から超大型宇宙船が到着した。降りて来た乗員はひとり。翻訳機でコミュニケーションを図ると相手は最初の乗員の3代目で、生まれた時から宇宙船で暮らしていたのだと言う。父母から聞いたところでは祖父母は出発した星から託された使命を盛んに両親に説き聞かせたという。地球に到達したご当人は、食糧節約のため祖父母がかなり晩年なって子供を作ったので両親の顔しか見ていない。その両親は。祖父母から絶えず言われてきた使命なるものにうんざりし、それを自分の子にはうるさく言わなかった。到達した子孫は到達先で調査をし、宇宙船に乗って母星を目指すことになっている。母星の方向に進めば、最後の乗組員である彼が死んでも宇宙船は回収されて結果は母星に届く筈なのだが・・。星新一の作品では、恒星間旅行や時間旅行と言っても、ワープやワームホールなどの具体的な手段の説明はなく、それらが可能なことは小説の前提であってどうしてそう言うことが可能なのかを細々とは書いていない。筋書きを純粋に楽しんでほしいのだと思うが、本書の2作品では普段小説に出てこない「科学的なるもの」そのものがネタになっていて珍しい。
題名に絡めて悪魔が登場する作品で面白いものと言えば「契約者」である。魔王からもっと地獄に魂を連れてこいと言われた悪魔が自殺を試みる者を見つけ魂を買う代わりに賭けで絶対に勝てると言う契約を交わした。悪魔は、もっと魂が欲しいと思い、もうひとり同じような契約を交わした。ところが魂を回収しないうちに、この2名が出会い、その悪魔を前にこれからふたりで勝負をするという。まさにこれも悪魔をネタにしたブラックユーモア。星新一の手にかかれば悪魔も小説のネタにされてしまう。自分の中では初期の短編の評価はあまり高くない。三冊目と言うことで珍しい科学ネタもあったが、こんな初期に、まさに星新一的な作風を本書で確立したのかな、と思う。
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