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本作を読んで感じるのはオコンネルの人物描写の上手さである。デビュー第2作にして、新人作家にありがちなペラペラの書き割りではなく、登場人物がしっかりと陰影を持った人間として立ち上がってくる。

アマンダの影
『アマンダの影』はキャロル・オコンネルによる〈キャッシー・マロリー〉シリーズの第2作。私が読んだのは創元推理文庫版だが、これより前に竹書房文庫から『二つの影』というタイトルで旧訳が出ていた。

シリーズ第1作『氷の天使』(旧訳では『マロリーの神託』)は一作でいろいろなことをやろうとして話がとっ散らかってしまい、かなり読みづらかったのが、本作では物語が整理されて多少読みやすくなった。

キャッシー・マロリーはニューヨーク市警警視のルイ・マーコヴィッツとその妻のヘレン(なお2人は『氷の天使』中で死去)の里子となった元孤児で、マロリー自身もニューヨーク市警の巡査部長だが、『氷の天使』の件で停職処分となった。本作では冒頭、マロリーのブレザーを着た若い女の死体が見つかり、彼女の相棒だったライカー巡査部長が現場でその死体の検分に当たる。当然のことながら死体はマロリーではない別の女性、アマンダ・ボッシュと判明。マロリーは停職処分中にもかかわらず、友人でコンサルタントのチャールズ・バトラーの協力で勝手にアマンダ殺しの捜査、というか調査に乗り出す。

で、物語は一応このアマンダ殺しの真相究明がメインとなるのだが、この事件はかなり早い段階で犯人となり得る人物の条件が判明し、その候補が《コヴェントリー・アームズ》の住人のうちの3人に絞られてしまうので、ミステリとしての面白みには乏しい。そこで読ませる要素として、メイン部分とも絡む2つのサブストーリーが用意される。1つは超能力を持つという息子が義母を殺そうとしているのではないか、とおびえる家族がチャールズに調査を依頼してきた件。そしてもう1つが、亡き妻をイメージの中で甦らせようとして狂気に走った偉大なるマジシャン、マラカイの手法を使って、死んだアマンダを甦らせて死の真相を聞き出そうと試みるチャールズの話。こうしたオカルトと狂気に満ちた暗いエピソードが、通常の法律、倫理、道徳といった規範から逸脱したマロリーの行動原理と相まって、本作の独特のカラーを作り出している。

まだまだ物語は荒さが目立つが、本作を読んで感じるのはオコンネルの人物描写の上手さである。デビュー第2作にして、登場人物が新人作家にありがちなペラペラの書き割りではなく、しっかりと陰影を持った人間として立ち上がってくる。例えば、こんな描写:ルイとヘレンがマロリーを里子にすることに強硬に反対したヘレンの姉、アリス。その後もマロリーはアリスとほとんど顔を合わせることがなかったが、本作で事件調査に彼女の協力が必要になり、養母の実家でもあるアリス宅に赴く。用件を終えて
(前略)アリス伯母とぎこちなくおやすみの挨拶を交わしたマロリーは、ヘレンの育った部屋部屋を通り抜け、その隅々にまで目を配りながら、ゆっくりと玄関に向かった。
途中には、タペストリのカバーのかかったグランドピアノがあった。その上には、凝った装飾のフレームに収められた小さな写真が五十あまりも載っていた。(中略)マロリーは、少女時代のヘレンの写真を見つけた。それは、大人になり、年老いていった他の子供たちとともに、奥のほうに置かれていた。彼女はその写真を手に取り、ヘレンの幼い顔を見つめた。
写真をもとの場所にもどそうとしたとき、彼女の手がぴたりと止まった。その目は、中央の列の、ある写真に釘付けだった。ずらりと並ぶ無数の若い目のなかから、自分の顔がのぞいている。それは、あの訪問から丸一年後に撮られた学校の集合写真だった。
彼女の肖像は、とくにいい場所にあったわけでも、隠されていたわけでもない。それはあるべき場所にあった。前後の世代にはさまれ、家族の一員として。(p.96)

〈キャッシー・マロリー〉シリーズは現時点で12作あり、本当に評価が高まるのは第6作『吊るされた女』くらいからだったと思う。そこに到達するにはまだ少し巻数が必要だが、時間はかかっても1作ずつ順に読んでいくつもりだ。
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  • 掲載日:2026/04/24
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