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指揮者のことも、レコード会社のことも、日本における音楽受容のことも知ることができる優れた労作

  • 巨匠指揮者列伝 名盤でたどる88人[ア~セ]
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  • 出版社:音楽之友社
巨匠指揮者列伝 名盤でたどる88人[ア~セ]
著者の山崎浩太郎さんは、常々音楽の「推進力」が重要と述べられている。
だから、スタジオ録音よりはライブに即興性と推進力をより感じられるため、時に音質が劣る古いライブ・ディスクを評価する場合があり、一方でたとえ名盤の誉れ高いディスクであっても「推進力」が感じられなければ楽しめないと言って憚らない。それを何かで読んで以降、スタジオ録音盤のいくつかを聴いてみると、確かに燃焼度の低いものも多くある。

閑話休題。

本書は世界の巨匠指揮者88人(2025年6月時点の物故者)を厳選し、それぞれの生涯の軌跡を10枚もしくは5枚の主要ディスクとともにたどった「モーストリー・クラシック」という雑誌に連載された「巨匠「名盤」列伝」を新規原稿も加えて再構成した2巻の内の上巻。指揮者のラストネームの五十音順で並べられており、本巻ではアからセの指揮者42人分が収められている。

おもな収録指揮者は、朝比奈隆、アーノンクール、アバド、アンセルメ、ヴァント、小澤征爾、オーマンディ、カラヤン、クーベリック、クリュイタンス、クレンペラー、サヴァリッシュ、ジュリーニ、ショルティ、ストコフスキー、セル。

各指揮者が時代の影響も受けながらどう活躍してきたのか、をコンパクトにたどっていて、いろいろと背景も知ることができるし、レコード制作のタイミング、ライヴ・ディスクとなっている演奏会のタイミング、あるいは収録曲との親和性などもたどることができて、とっても興味深い。

ディスクの演奏内容を言葉で評価する難しさというものがあると思うのだけど、本当に著者が感動した演奏だとわかる表現が施されているものが時に出てくる。それこそが著者お薦めの名盤だろう。

日本では当時の評価がそれほどでもなかったけど、世界的には超一流と目されていた指揮者についての著者の意見というか評価は、著者と同時代人としてよくわかる。
例えばユージン・オーマンディなど。
著者は音楽評論家の所為ばかりではなく、当時の日本の音楽受容地盤をその因とするが、私は音楽評論家の責任は重いと思う。
実演を聴く機会がなかなかない海外の演奏家の評価は、極東の地ではレコードに依ることになってしまうのだが、それを評価する評論家の意見は一種の指標となってしまうので、例えば「精神性に不足する」とか「ロシア的でない」などというような杳とした表現で否定された指揮者のディスクは、なかなか日本では評価されずにいたように思う。
長く日本で評価されずにいた指揮者はここに取りあげられている人々だけでなく、現役の指揮者でもいるが、音楽評論家の世代交代に伴い高く評価されてきているのは、上記を裏側から示していると思う。
音楽大学で専門的に勉強してきたわけではない多くの音楽ファンと、音楽について一家言(あるいは演奏家への偏見)をもつ評論家の間にあるある種の乖離は、この本で感じることはない。
優れたディスクの指標としての本書の評価とは別に、上記の点を私は大いに評価したい。
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  • 掲載日:2026/04/25
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