ディーノ・ブッツァーティを読むのは
石の幻影に次いで二作目です。「石の幻影」は晩年の作でしたが、今回読んだのは作者の二作目の長編小説とのこと。イタリア北部の針葉樹の深い森に囲まれたフォンド谷が舞台です。
主人公のプローコロ大佐は軍隊を退職して、亡くなった叔父から相続した古森と呼ばれた深い森に囲まれた屋敷へやってきます。しかし古森の奥山の森林はすべてまだ幼い甥が相続し、大佐はその甥の後見人になりました。大佐は甥が自分より広い森を相続したのが気に入らず、甥を事故に見せかけて殺してしまおうとします。
甥は大佐の屋敷から近い寄宿学校に住んでいて、古森には学友たちとよく遊びに来ていました。甥のベンヴェヌートはひ弱な男子で同級生のいじめの対象になっています。
このお話では選ばれた人間は森の精霊や鳥や動物と会話ができます。谷を吹き渡る風にも名前があり、人が風と会話することもできます。ヨーロッパのキリスト教以前のアニミズム的な伝統を感じます。大佐は風のマッテーオを下僕のようにして、甥を殺そうとしますがマッテーオは失敗します。ベンヴェヌートは何かに守られているかのようです。
大佐は甥を偽装して殺そうとベンヴェヌートを連れて古森の奥まで行き置き去りにしますが、大佐自身が森で迷子になり、またも殺害には失敗します。
ある晩、大佐が夜に屋敷の外に出てみると、森の鳥たちが集まって、甥を置き去りにし殺そうとした大佐の罪の有無を審議していました。そして議長のフクロウは大佐の有罪を宣言し鳥たちは解散します。
その裁判の直後、大佐に愛想をつかした大佐の影が大佐を残して去ってしまい、大佐は影のない男になってしまいます。
その後、大佐にはある改心が訪れます。最後の場面では大佐は甥が雪崩に埋められたと聞き、吹雪の中を救出に向かいますが自身が力尽きてしまいます。
風のマッテーオは大佐が死ぬときは自分も死ぬときだとして、実際には寄宿舎にいて無事だったベンヴェヌートに別れを告げに訪れます。そしてベンヴェヌートに今日がベンヴェヌートが子供から大人に変わる日だと、大人になったらもう風の声も分からなくなるだろうと告げます。
メルヘンのような物語ですが、勧善懲悪ともちょっと違います。プローコロ大佐は悪人のようでもありますが、森の精霊や風と会話できることから、子供の心をもった大人だったとも思えます。風のマッテーオは消え去るまでベンヴェヌートには大佐の悪だくみについては一言も漏らしませんでしたから、ベンヴェヌートにとってはプローコロ大佐は尊敬すべき人として思い出に残るのでしょうね。
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