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臨床心理士の草分けの人。精神科医との違いが分かります。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
  • カウンセラーは何を見ているか
  • by
  • 出版社:医学書院
カウンセラーは何を見ているか
「シリーズケアをひらく」という医学書院発行の書籍群があります。先に、ショートカット先:「あらゆることは今起こる」(柴崎友香)を読んで非常に感銘を受けたので、同じシリーズから題名の気に入った本著を手に取りました。

第一部は、臨床心理士の立場から見た現場です。実際は、カウンセラーとして活動しています。Wikiで調べたら、現在は臨床心理士には民間資格があり、カウンセラーにはないようです。きっと、カウンセラーとは役割的なものだからなのでしょう。第二部は、著者が心臓系の病気で四日間入院した時の患者の立場から見た医療現場です。第一部の分量が60%、第二部が40%。

著者の言葉によると、著者自身がもっと専門用語を使って専門書らしい体裁を取った方がよかったかもと悩む一方で、多くのクライエント(あえて患者とは書かないこだわり)と友人たちに背中を押されてこうなったとのこと。わたしの印象では自分の目線で日常観を出す書き方です。残念ながら、わたしは心理サポートの専門家から見た実務的な話を聞きたかったので、第一部は少々物足りなく、第二部はわたしには不要に感じられました。まあ、何を求めてこの本を読むかということなのですが。

具体的には、個人名を伏せたうえで、こんな例があって、こういうカウンセリングをしたらこうなった的な話をわたしは期待していたんですね。残念ながら、そういう切り口は少なく、きっと患者のプライバシーを気にされたのでしょう。

カウンセラーとしての著者が、他人の考えていることは分からないという話や、相手の心理に巻きこまれないように、小さな小部屋をこころの中に作って区分整理し、自分の中で多層化して切り分ける方法で自分のこころを守っている話などが展開されています。つまり、自分のこころをどうやって守るかを、もっとも激しい心理戦に巻きこまれているプロから学べるといえばよいのかなと思います。それが本著の魅力です。

先に読んだ、「あらゆることは今起こる」(柴崎友香)が生の声満載で、すさまじい迫力があったので、同じようなものを期待しすぎてしまいました。かたやプロの小説家で、こちらは充分な文章力があるとはいえ一般人であり、専門は違う方なので、その差もあるのかもしれません。ちょっと申し訳ない感想になってきました。楽しめたところを紹介しますね。

第一部は、臨床心理士と精神科医との違いが分かるよさがありました。シンプルな違いは、精神科医は保険診療で、臨床心理士は保険適用外ということです。なぜかというと、臨床心理士は医師免許を持っていないからなのです。つまり、保険がきかないにも関わらず、患者から頼られる存在になる必要があるというのが一番のポイントなんですね。グレーゾーンという言葉をご存知ですか? わたしは最近知りました。そして、すとんと腑に落ちる極めて的確な用語だと思っています。

精神的に自立困難になり、投薬を受けたうえで安全隔離をする状態。いきなり、そんなレベルに精神を病む人はいません。ここがポイントです。通常は徐々に悪くなっていき、どうにも難しくなり、薬を処方してもらい、浮き沈みを繰り返し、危ない道をかすめていき、そしてたどり着くのが個室ではないでしょうか。つまり、安全隔離に至るまでに救おうとするのが臨床心理士と私は理解しました。それであれば、ニーズはあるでしょう。

しかし、著者は草分けです。むかしは、グレーゾーンを対応する医療体制になっていなかったのですね。著者自身も、最初は精神病院の医師に誘われて、1フロアーをカウンセリングルームとして使わせてもらうという、精神病院の機能の一部というスタートだったのです。それが、理由は不明ですが独立する事態に追い込まれ、カウンセラー十人前後とともに原宿カウンセリングを立ち上げていまに至っているのです。

保険診療は安いから人が集まります。その分、患者によりそう時間は短くなります。臨床心理士は保険診療ではないカウンセラーですから、いかに患者の精神を和らげるかを目標とします。つまり医者は判断して薬を投与するか安全隔離して終了、臨床心理士はそうならないようにサポートして患者が職場復帰出来たら終了という、業務範囲に大きな違いがあったのです。すみません、これって知っている人には当たり前ですよね? わたしは、興味はあったのですが、本著で一番勉強になった部分でした。

だからこその、あえて患者と呼ばないスタイルは新鮮でしたし、なるほどこういう人にこころを助けてもらえるんだという知識は、ちょっとした安心材料になりましたね。しかも、この区分整理そのものが、著者が時間をかけて立場を確立してきたものであり、著者の功績の大きさを理解したのでした。

そんな臨床心理士のトップクラスの人が、どんなこころの持ちようで業務に接しているかが分かる本です。必要な人の手に届けば幸いです。
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  • 掲載日:2026/03/04
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