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無告の民のために信長を撃つのじゃ――周作の遺言はつねに吾市の胸にあった。

  • 無告のいしぶみ: 悲謠抗戦信長
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  • 出版社:KADOKAWA(新人物往来社)
無告のいしぶみ: 悲謠抗戦信長
元亀四年、荒木村重は織田信長に臣従を誓った。
それが、領国摂津のためになると判断したからである。

主人公の吾市は当時二十歳の若者。村重の乳母子であり、小者として仕えていた。
千里眼、地獄耳、按摩上手という、ちょっとした異能の持ち主である。
吾市の両親は、伊勢長島の人で、吾市も十歳まで長島で育った。
両親はすでに亡い。

伊勢長島といえば、本願寺の支配するくに。吾市も本願寺の門徒だった。仏敵信長の配下となった村重に仕えているわけにはいかない。
吾市は、敬慕する村重のもとを泣く泣く離れ、故郷の長島へ帰った。

長島は、信長に抗う一向一揆の小さなくにだった。
水に囲まれた輪中地帯の長島で、吾市は「阿ノ伍」という若者五人組で舟に乗る。
吾市の千里眼と地獄耳は、舟でも戦闘でも役に立った。
「阿ノ伍」のリーダー周作は、仏の教えを易しく説き、美しい声で和讃をうたい、誰に対しても公平で、勇気ある若者だった。
吾市は、周作に恋に似た憧れを抱く。

天正二年、信長の長島攻めが始まった。
糧道を封鎖しての干殺し。
つぎつぎと餓死者が出る。
ついに願証寺の証恵上人は、投降する。
一揆衆の生命安堵を条件に。
しかし、約束は破られた。
舟で長島を出ようとする者は、女も子どもも容赦なく斬られ、水に沈められた。

吾市は、逃げた。
『村重殿が信長離反の際は、旧主のもとに戻るがいい。反信長の武力を借りて、無告の民のために信長を撃つのじゃ』
周作から託された願いを果たすために、吾市は息継ぎの竹を咥え、血に染まった揖斐川に潜り、泳いだ。

逃げ延びた吾市は、石山本願寺に身を寄せ雑役夫として働く。
天正六年、周作の”予言”どおり、荒木村重は信長から離反した。
吾市は再び村重に仕えるようになった。
『無告の民のために信長を撃つのじゃ』 周作の遺言が、つねに吾市の胸にあった。

信長は、叛いたものに容赦はない。
有岡城は糧道を断たれ、干殺しが始まる。
打倒信長の先頭に立っていたはずの村重は、あろうことか、籠城している妻子や領民を見捨てて、自分だけ逃げてしまった。
怪しみながらも逃亡の助けをした吾市は、有岡城にもどり、城主に見捨てられた民の一人として炎に焼かれる。
厭離穢土 欣求浄土 往生極楽 南無阿弥陀仏……
焼かれながら唱える人々の声が、聞こえてくるようだった。

信長本人は、物語に一度も登場しない。
信長の手足になって命令を下す武将、殺す兵、殺される民、信長を憎み恐れて叛いても逃げる武将。
そうした人々のありさまを描くことで、まさに六天魔王の信長像が、物語の中に浮かび上がってくる。

それにしてもすっかり戦国大名化した石山本願寺。
浅井氏や朝倉氏と並んで反信長網の中にしっかり割って入っている。
一向一揆衆を本願寺領土の拡大のために動員しているようで、悲劇の物語もなんだか釈然としない。

  • 掲載日:2026/04/30
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この書評へのコメント

  1. No Image
    ねねみみ2026-04-30 22:06

    いつの時代も日本の宗教団体なんてインチキな物なんですよ。坊主なんて戦国の頃から金貸しをやったり女に子どもを生ませたりやりたい放題。そして民衆はバカであるといったヒトラーの追う通りに何処の国でも何時の時代でも民衆はバカな物なんです。そんな民衆を破戒僧が焚き付ける。よくある構図です。悲劇的ではありますがある種の喜劇とも言えましょう。

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