山村正夫というと、私は映画化された『湯殿山麓呪い村』くらいしか知らなかったが、1949年に17歳でデビューし、本格ミステリからユーモア・ミステリ、怪奇ミステリまで、幅広いジャンルで活躍。1980年代には日本推理作家協会の理事を務め、また小説講座の講師として宮部みゆきや篠田節子など後進の育成にも尽力したという。なお1999年、多臓器不全のため死去(享年68)。
そんな山村の短篇集『断頭台/疫病』は、帯や裏カバーの紹介文に「異常心理ミステリー」という言葉が踊り、巻末に収録された山村と森村誠一の対談の中でも、山村は
僕は人間の異常心理というものにものすごく興味を持ってるんですよ。(中略)僕は平凡な人間は現実生活だけでたくさんだと思う。だから小説の世界では、好んで異常な人間を描きたくなるのかもしれないな。
と語っている。
けれども、私は本書の収録作に少しも「異常心理ミステリ」を感じなかった。むしろ山村作品からは、矢島正雄+弘兼憲史によるマンガ・シリーズ『人間交差点(ヒューマンスクランブル)』に似たものを感じた。『人間交差点』にも犯罪事件を扱った話があるが、シリーズ全体を貫くテーマは「人の持つ業(ごう)や運命の不思議さ」であり、だからそれらの作品を読んで「この登場人物の言動は異常だ」と感じることはあっても、「これは異常心理ミステリだ」と思う人はまずいない。本書の収録作も(作者の意図がどうだったのかは別として)、確かに思考や行動がちょっと変わった人が出てくるが、そこにあるのはやはり「人の持つ業や運命の不思議さ」であり、“いわゆる「異常心理ミステリ」”とは違うと思う。
本書は短篇集『断頭台』に「獅子」、「暴君ネロ」、「疫病」の3篇を加えた増補版である(うち「暴君ネロ」は単行本初収録)。収録作は、1970年に書かれた「ノスタルジア」を除いて、1950年代後半から1960年代前半に書かれたもので、そのため作品に戦後の日本の有り様が色濃く滲んでいる。
無理心中に見えた事件の意外な真相を描く「女雛(めびな)」と「短剣」、天使のような女性を惨殺した犯人の奇妙な動機が焦点となる「天使」と「暗い独房」などは、そのまま『人間交差点』の中に入っていても全く違和感がない作品(なお「天使」と「暗い独房」はそれぞれ独立した短篇だが、「暗い独房」は「天使」の続篇としても読むこともできる)。
表題作「断頭台」と「ノスタルジア」は現在と過去がシンクロしながら、過去と現在のどちらが図でどちらが地なのか分からないところがミソ。
ところで本書は、日下三蔵編集による〈異色短篇傑作シリーズ〉の第1弾として刊行された。「編者解説」で日下が
筒井康隆『堕地獄仏法/公共伏魔殿』でスタートした《日本SF傑作シリーズ》に続いて、竹書房文庫から《異色短篇傑作シリーズ》をお届けする。SF、ミステリ、ホラーの各ジャンルにまたがりつつ、どのジャンルからもはみ出すような奇妙な作品を蒐(あつ)めて、短篇小説を愛する皆さんに楽しんでいただきたいと思っている。早川書房の叢書《異色作家短篇集》の日本版を狙ったもの、といえば分かりやすいだろうか。
とぶち上げたこのシリーズ、第2弾が戸川昌子の
『くらげ色の蜜月』、第3弾が生島治郎の『頭の中の昏い唄』であることが分かっているが、それ以降、刊行されているのかどうか判然としない。ご存じの方がいたら、コメントでもいいのでお知らせ頂けると助かる。
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