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1965年、須賀敦子がアツコ・リッカ・スガの名前で、日本文学の短篇をイタリア語に訳し、作品毎に簡潔な解説をつけて編んだアンソロジーは、長くイタリアで読み継がれてきたという。

  • 須賀敦子が選んだ日本の名作: 60年代ミラノにて
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  • 出版社:河出書房新社
須賀敦子が選んだ日本の名作: 60年代ミラノにて
壺井栄の『妻の座』を読んだあたりから、私の元に久々に近代日本文学のブームがやってきた。
次は何を読もうかと、積読棚を眺めていたら、目があったのがこの本。
2020年暮れの初版発行当時、タイトルに惹かれて購入したものの、実際に手に取ってみると想像していたものとちょっと違うような気がして、そのまま棚の肥やしになっていた本だった。

ところが、今回読み始めているとこれがとてもおもしろい。

須賀敦子といえば、エッセイストとしても人気が高いが、本好きの間でその名が知られるようになったのは、タブッキをはじめイタリア文学の翻訳家としてのこと。
そのきっかけとなったナタリア・ギンズブルグの『ある家族の会話』の翻訳を手がけたのは、須賀が56歳の時のことだったというから、翻訳家としては、かなり遅いスタートだったといって良いだろう。

ところがその須賀が36歳のとき、イタリア文学を日本語に翻訳して紹介する20年も前に、アツコ・リッカ・スガの名前で、日本文学の短篇をイタリア語に訳し、作品毎に簡潔な解説をつけたアンソロジーを編んでイタリアで出版していたというのである。

本書に序文を寄せたジョルジョ・アミトラーノによれば、須賀が夫ペッピーノや友人たちを思いつつイタリア語に訳した日本の名作の数々は、Narratori giapponesi moderni(『日本現代文学選』)として今も読み継がれているのだそうだ。

全25篇を収めるその『日本現代文学選』がボンピアーニ書店から刊行されたのは1965年、日本文学といえば、まだ英語からの重訳が多かった当時にあって、この翻訳選集の訳文は、イタリア語を母語とする読者にも高く評価されたという。

本書にはその『日本現代文学選』の中から日本語原典13編を須賀の解説と共に収録し、残りの12作品については解説のみを収録、加えて大竹昭子と池澤夏樹がそれぞれ解説を寄せている。

13作品は下記の通り。
高瀬舟(森鷗外)/十三夜(樋口一葉)/刺青(谷崎潤一郎)/春は馬車に乗って(横光利一)/ほくろの手紙(川端康成)/お化けの世界(坪田譲治)/ヴィヨンの妻(太宰治)/下町(林芙美子)/志賀寺上人の恋(三島由紀夫)/東北の神武たち(深沢七郎)/紫苑物語(石川淳)/道(庄野潤三)/名人伝(中島敦)

編纂された年代と、編者がイタリアで暮らしていて決して手元の資料が豊富とは言いがたかったであろう状況を考え合わせると、このラインナップの「新しさ」は驚くべきことに思われるし、須賀がなぜこの作家のこの作品を選んだのか、作品や作家をどのようにとらえていたのか、各作品に添えられた訳者解説から読み取れないだろうかなどと、あれこれ思い巡らしながら読んでいくと、単体で読むのとはまたひと味もふた味も違う気がして興味深くもあった。

  • 掲載日:2026/04/27
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この書評へのコメント

  1. 三太郎2026-04-27 09:05

    このラインナップで初めて知った作家さんが庄野潤三でした。「道」が面白かったので別の作品も読んでみようと思いつつまだ読んでいません。古書店でハードカバーの「屋根」を買ったので今度こそ読もうかな。

  2. かもめ通信2026-04-27 10:26

    私は横光利一も深沢七郎も石川淳も読んだことがなかったような…(あるいはどこかアンソロジーか何かで目にしているかもしれませんが)
    またいろいろ積んでしまいそうな自分が怖いのですが、とりあえず、途中で止まっている須賀敦子全集の続きを読もうと思います。

  3. 三太郎2026-04-27 10:36

    僕も深沢七郎や石川淳は名前しか知りませんでした。庄野潤三は名前すら知らなかった作家で、僕にとってはかなりマイナーな作家さんということになります。庄野さんは須賀さんと年代が近かそうです。須賀さんは当時の新しい作家にも注目していたのでしょうね。

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