朝日新聞の書評で知った本。
本書によれば2100年に気温が4℃上昇するのは避けられず、著者は人類が低緯度帯(赤道付近)に住むことがもはや不可能だと言う前提で議論を展開している。気候変動の名につられて読んでみたのだが、内容の大半は(全12章のうち3~11章)は、人類は21世紀に大移動をしなければならないと言う論の説明に費やされている。
第1,2章は気候変動の要因や各種予測の確かさ、第12章は気候変動対策として著者が有効と思われる手法などが書かれている。
著者が最も筆を費やした人類の大移動だが、その進化の過程の大半を狩猟採集生活に送った人類が移動をやめたのは最近のことであり、生まれた場所に拘るのも最近のことだと言う論に始まる。そして移民を拒絶する愚行を挙げ、国民国家の誕生と共に生じた国境と言うものの無意味さ、移民を恐れる心理の分析と統計的なデータからそれは根拠のない恐れに過ぎないと言う指摘などが書かれている(3~6章)。移民論の後半(7~11章)は、移民のための都市建設の重要性、食料やエネルギー、水などの対策を述べている。
移民論は賛成であり、「移民はテロや犯罪の温床」と言う誤解を説く著者の情熱や努力には頭が下がるが、昨今のSNSなどで見る過激な論調を読むと著者の議論が果たしてどれほどの人に受け入れられるのか、いささか疑問である。著者は「移民はテロや犯罪の温床」と言う論が誤解に基づくものだと各種の学説や統計データを引用して説明しているが、実際は大半が注記であり、それを100%信頼する前提で本文を作っている。注記の引用はこの手の本ではよくある手法ではあり引用するからには正しいはずではあるが、せめてグラフでもあればと思った。
本書を読んで一番勉強になったのは地球温暖化防止対策を取り上げた第12章である。
陸地で計画的な植林を行っても目標を達成できないケースが多いが、それと比べれば海洋肥沃化で複雑なサイクルを回復させる方が二酸化炭素を吸収して地球の気温を下げる手段として効果が期待できる(270頁)。
炭素を燃やす発電所は例外なく二酸化炭素回収・貯蔵(CCs)技術を導入すべきだ。地質学的なアプローチも可能だ。風化と言う自然のプロセスを促進すれば大気から直接二酸化炭素を回収できる。岩石は雨水に溶けた二酸化炭素と化学反応を起こすと破壊されその殆どは海に運ばれた後、海底に貯留される(271頁)。
後者の手法は知らなかった。温暖化対策としては海に注目した方がよさそうに思える。著者は、大気に硫酸塩を撒いて、太陽放射を減らし温室効果を相殺する案を強く勧めているが、副作用もわからないものをそんな簡単にやってよいものかと思う。もちろん著者は少しずつ慎重にと言っているが。
二酸化炭素の排出により地球の気候システムへの意図的で大がかりな介入をしてきたのに、ジオエンジニアリング(評者注:人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変)はタブー視される(274頁)。
が論拠の一つなのはいささか納得できない。むしろ著者が批判的な
だが人類のよからぬ行動が環境を破壊したことにたいして新しい技術で対処することに良心から反対する人たちがいる(279頁)。
の方に心情的にはなびく。
所々経済成長と絡めて書いているところもあって、よく読めば矛盾がないように配慮されてはいるのだが、経済成長神話が温室効果排出の一因であることを考えると、すっきりしない。
いずれにしても著者の言う通り、温暖化対策は待ったなしであり、人類の移動が必要な時期が迫っていることは確かである。
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