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「人間というものは、この地上で不幸にして人間と同じ食物をとって生存するように運命づけられている動物たちに、食料の獲得権を認めてやろうという考えにはなれぬもののようである」(『アザラシのサミー』より)

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  • 世界動物文学全集〈2〉アザラシのサミー・思い出のサラバン・黄色い老犬 (1978年)
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世界動物文学全集〈2〉アザラシのサミー・思い出のサラバン・黄色い老犬 (1978年)
1978年に世界動物文学全集の一冊として出版された本書には、アザラシ、猫、犬をそれぞれを題材にした、三つの作品が収録されています。個別に簡単に紹介します。


●『アザラシのサミー』(1964年)

イギリス人作者ニーナ・W・フック(1907-1974)の経歴については、あまりよく分からなかったのですが、他にも"The Snow Kitten"(1967年)、"Little Dog Lost"(1985年)のように動物を扱った本を書いています。本作はサミーと名づけられた若い灰色アザラシを題材としたノンフィクションです。他の2作が、人間に飼われている動物を題材としているせいもありますが、人間と自然界の動物の関わり方、棲み分け方についての考察が多く見られます。

サミーは、1961年5月に、太平洋に面したイングランド南部ドーセットの海岸にあるチャップマン・プールという入江に初めて現れました。サミーの特徴だったのは、自ら進んで、人間との接触を求め、交友関係を構築することに熱心だったという点です。それも顔見知りだけでなく、初めて会う観光客に対しても同じでした。さらに特徴的なのは、餌を求めて、人間と接触しようとしたのではないことです。チャップマン・プール近辺には魚が豊富で、サミーは食料に困ることはなかったようなのです。時として、遊びに夢中の人間の子供が食事を忘れるように、サミーも食事抜きで一日中人間と遊んでいたこともあったそうです。

作者は、当時、この入江の近くに住んでいて、サミーとは何度も接触し、一緒に遠泳を楽しむまでの友達となります。作者はこう書いています。

「サミーは、ほうびとしての食べ物にはまったく興味を示さなかった。(中略)サミーがしたがったことは、たいてい遊ぶことだった。それも私たちと遊ぶことだった」

サミーは人間から教わった芸当、例えば、人間が右手で投げたものは取ってくるが左手で投げたものは取ってこないというようなこともやりましたが、自分で遊びやいたずらを考えることもやったそうです。

「サミーがいちばん好んでやったのは、なにも知らないで泳いでいる人の下へ深く潜り、いきなりその人を水の上へ高々と突きあげることだった。そのほかに、もうひとつ好きだったのは遊びは、泳いでいる人のそばをぱっと通り過ぎながら、その人のお尻をぱくっと軽く噛んで逃げることだった」

そして、アザラシは、一般的には漁師から嫌われる存在でしたが、サミーに対しては、網を破られることがあっても誰も危害を加えようとはしませんでした。これに対し、ある漁師はこう言ったそうです。

「サミーについてはなにかがあったんですよ。あなたもサミーをいじめたくはなかったでしょう?」

作者もこう書いています。

「ふつう人間が動物に話しかける時は稚語に類するばかげた言葉づかいでものをいうことが多いが、私はサミーに対して、そういう言葉は使わなかった。これは私にかぎらずたいていの人がサミーに対してはそうだったが、それというのも、サミーは半分人間みたいに思えたからだった」

「アザラシにはいくつかの人間に類似した特徴がある。それは涙を流すこと、音楽に反応すること、前びれを腕のように使って物を支えたり抱いたりすること、さらになにものより顕著な特徴は、感情を表明することである」

もちろん、これはアザラシ全般に共通することではなく、サミーはやはり例外的な野生のアザラシだったようです。例えば、音楽に関しては、サミーは時として恍惚に近い表情をうかべながら熱心に聞き入っていたそうですが、まったく反応を示さない別の人間慣れしたアザラシがいたことも、作中では述べられています。

ただ、野生動物との付き合いが深くなればなるほど、人間と自然界の共存ということに思いをはせざるをえなくなります。

「人間というものは、この地上で不幸にして人間と同じ食物をとって生存するように運命づけられている動物たちに、食料の獲得権を認めてやろうという考えにはなれぬもののようである」

本書は、この点を深く掘り下げているわけではありませんが、鮭を食べる、漁の邪魔になる等の理由で、アザラシの虐殺を正当化している当時の制度(現在は改善されていると思います)への批判が述べられています。また、印象的なエピソードとして、たまたまいた別のアザラシをサミーと思い、近づいていったら噛まれたという観光客が、銃でサミーを殺そうとするものがあり、それも、人間が地球上の他の動物への生死与奪権を持っていて当然だという人間の思い上がりを物語るものです。

私が今住んでいる福島県の田舎町には、昔から熊が出没する地域で、地元住民も慣れたものなのですが、さすがに今年は見かける回数が多いようです。この件に関しては、あまり軽々しいことは言えませんが、近所の人から聞いた話では、最近罠をかけた檻に捕まった熊がいたそうですが、ガリガリに痩せていたとのことでした。実が熊の好物であるブナの樹が多い地域なのですが、今年は大凶作とのことで、また地球温暖化が原因の酷暑による影響も山の自然には少なからずあったことでしょう。そういう意味では、人間の罪は軽くないと思います。

さて、こんなサミーですが、11月には別れがやってきます。灰色アザラシは、親離れした後単独行動をしばらく続けるのですが、繁殖期には当然再び集合しなければなりません。ラストでは、作者とサミーの別れの様子が描かれています。作者が本書を書いたのは、この別れから3年後でした。おそらく、サミーとの再会を願っていた作者は、いろいろな人からせっつかれたものの、サミーのことを書く気になれなかったのでしょう。サミーのことを書くと、あれがサミーとの永遠の別れだということを認めることになるからです。それだけ、深い親交を築いていたのでしょう。

感動的なノンフィクションではありますが、同時に、人間界と自然界の壁の大きさをも感じる作品です。


●『思い出のサラバン』(1966年)

アメリカ人作者ブライナ・アンターメーヤー(1909-1985)は、詩人ルイス・アンターメーヤーの妻だった人物で、家で飼っていた猫を回想した本作以外にも、猫が登場する作品をいくつか書いています。

本作は、作者夫婦が最初に飼った三毛猫のサラバンの思い出を綴ったものです。ただ、エッセーと言うより、こちらもノンフィクションの趣が強い作品で、現在読むと、いささか物足りない内容でもあります。というのは、基本的には猫可愛がりの作品ではあるもの、初めて飼う猫の対応にいかに苦労したかという部分にも、かなり筆を割いているからで、そもそも猫の飼い方自体も当時と現在では、特に室内飼いの扱いの普及で、ずいぶん変わってきていますから、現在となってはあまり参考にならない記述が多いように感じてしまいます。それと、サラバンの最期が現在も続くアメリカの病巣を象徴する出来事が原因なので、その後味の悪さも、全体の印象を悪くしてしまっています。というわけで、猫好きであれば、楽しめることは楽しめますが、あまりお勧めはできないというのが正直なところです。


●『黄色い老犬』(1956年)

アメリカ人の作者フレッド・ギプソン(1908-1973)の代表作と目されている作品で、ウォルト・ディズニー製作で『メリー・ポピンズ』で有名なロバート・スティーヴンソンが監督して、映画化されています。なお、本作には、続編として"Savage Sam"(1962年)、続々編として"Little Arliss"(1978年)があります。

本作は、完全なフィクションです。物語の年代は1860年代のアメリカで、南北戦争(1860-1865)後の時代です。舞台はテキサスですが、この時代のテキサスが無法の地だったことは、映画好きならば、『西部の人』(1940年)や『ロイ・ビーン』(1972年)で描かれた実在の人物ロイ・ビーンを思い出してもらえばいいでしょう。彼は、テキサス西部に突如現れ、自らを判事と称し、犯罪者を片端から縛り首にしたことで知られています。まぁ、無茶苦茶な話ですが、実際にそうだったようで、この雰囲気は、本作にも反映されていて、実は、それがあまり気に入っていないのです。主人公の少年が飼っていたラバや迷い込んできた犬(オールド・イェラー)にふるう暴力が、その象徴です。西部開拓(先住民の土地略奪)時代に、侵略者である白人たちがいかにピリピリ生きていたかを物語るものではあるのですが、今となると、読んでいて愉快ではありません。


というわけで、本書収録作で、積極的にお勧めできるのは『アザラシのサミー』だけです。『思い出のサラバン』と『黄色い犬』は、舞台となった時代に飼猫や飼犬へ人間がどう対応していたかを理解するための参考として読めばいいのだと思います。
    • 映画『西部の男』でロイ・ビーンを演じた名優ウォルター・ブレナン
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  • 掲載日:2025/09/24
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