手短に。ならないか。
翻訳エンタメ、雑誌、書籍が元気だったころ、それに携わった人たちにまつわるゴシップ列伝。
この時代の出版人、翻訳者ってクセのある人が多くて読み物として面白い。人間くさい。クリスティ翻訳でおなじみの詩人、田村隆一なんて最高にいいキャラしている。花嫁未定のまま式場だけ押さえて招待状を配って、祝い金集めて飲み遊んだり、原稿料欲しさに横領まがいのことしたり、結婚と離婚を何度も繰り返したり、ザ・昭和のクレイジーで好きだ。まあ、端で見るぐらいなら楽しいで済むのだろうが、巻き込まれたら、大変だな。
私が好きなこの人のエピソードは宝島社のダンディな広告「おじいちゃんにも、セックスを」のモデルになった話。本来予定していたシニアモデルがキャッチコピーに尻込みし辞退。代わりのモデルを捜したところ田村が引き受けたそうだ。この仕事をした後に亡くなり、モデル料が葬儀費用となったという。さすが『我が秘密の生涯』を全部訳した人は伊達ではない、かっこいい。
ゴシップ大好き宇野利泰が逆に中原弓彦(小林信彦)『虚栄の市』でモデルにされ、気にする様は面白い。その小林信彦が自分を宝石社から追放した人間が最も信頼していた常盤新平だったと知り「毒」を練り込んだ自伝的フィクション『夢の砦』について宮田昇の印象も興味深い。宮田の違和感は常盤の『片隅の人たち』でも読めばわかるのだろうか。ここらへんの食い違いを楽しむのもゴシップの醍醐味。
そして、学生時代は相撲部員で演劇好き、短気でケチだった早川清。彼が亡くなったとき早川一族は国税から相続申告七八億円の漏れを指摘された。編集者の残業代もケチって(田中潤司が別の本でボヤいている)どんだけ稼いでいたんだ? ハヤカワ…。早川清がカニカーニのオーナーに思えてきた。
2025年に社長も世代交代し、次のアニバーサリーに向かって動き出した早川書房。これからも、一消費者、一ファンとして買って応援致します。
ただぁ〜、「ハヤカワ文庫の80冊」の選定。これでいいのか、早川書房?
早川書房は早川清が演劇本を出すために興した出版社。その創業の志を継ぐハヤカワ演劇文庫というレーベルがあり、クリスティ文庫でも戯曲を出し、「悲劇喜劇」賞の主催をしているにも関わらず、戯曲が一冊も選ばれていない。
戯曲を選ばずして祝80周年とは、創業者が草葉の陰で泣いてるぜ。
この書評へのコメント