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darklyさん
darkly
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なんというマニアックな漫画評論。単なる怪奇マンガの歴史に留まらず、作品解説、時代背景、作品が与えた影響などとても濃厚です。
本書は漫画評論家の故・米沢嘉博が生前連載していた「戦後怪奇マンガ史」「恐怖マンガの系譜」をまとめたものです。

戦後からの怪奇マンガの歴史については、1960年代後半生まれの私にとっては1970年より前の作品は当然知らない作品ばかり。やっと1970年代の作品から知っているものがチラホラと出てきます。また私の両親はマンガはくだらないという当時の典型的なステレオタイプであったため、それほどマンガは読ませてもらえませんでした。さらに姉も妹もいないため怪奇マンガでは欠かせない少女漫画は全く読んでおらずかなり偏った知識しか持っていません。

戦後の怪奇マンガはやはり手塚治虫から始まります。手塚治虫は生涯怪奇マンガジャンルにおいて影響を与え続けてきました。別格の存在です。一口に怪奇マンガと言っても多種多様なジャンルがあります。読者に恐怖を与えることを目的とする「恐怖マンガ」の第一人者は楳図かずお。「オカルト物」は映画「エクソシスト」の後に隆盛を誇ります。

少女漫画として人気が根強いオカルト物が少年漫画になると「復讐物」となります。私が忘れられないのが古賀新一の「エコエコアザラク」。これは怖かった、というより結構トラウマに近かったような気がします。また復讐物でインパクトがあったのが藤子不二雄の「魔太郎が来る」。「ウラミハラサデオクベキカ」ってやつです。

少女漫画の主人公は「マハリクマハリタ」と可愛く魔法を使ってましたが、少年漫画の主人公は、「エコエコアザラク、エコエコザメラク」と黒魔術で人を呪っていたわけです。

そして「オカルト物」はオカルトアクションの方向へ向かいます。代表的なのが「孔雀王」です。夢枕獏、菊池秀行等の影響が顕著です。このようなオカルト物は宗教的な方向へ行ってしまう傾向があるようです。私の中で最も怖く最高の漫画はつのだじろうの「うしろの百太郎」。しかし確かに言われてみると単なる心霊系の怪奇マンガだったのが、だんだん霊界やらの話になって、新興宗教の本とあまり変わらなくなったような気もします。

ランピアンさんに教えていただいた諸星大二郎は発想や物語はきわめて健康的で常識的だがその奇想と構成力が独自の短編世界を作り出しているそうです。実はもうすぐ二冊ほど諸星大二郎の漫画を読む予定です。同じく発想や物語はきわめて健康的で常識的とされたのが日野日出志。そうかもしれませんがこの人の絵はどう考えても不健康で非常識としか思えません。でも読んじゃうんですよね。

漫画家という商売は非常に厳しいため、手塚治虫や石森章太郎のような天才はさておき、生き残るために色々なジャンルに挑戦しヒットを出そうと皆模索します。後に有名漫画家になったが怪奇マンガ家のイメージがないのが「がきデカ」の山上たつひこ、さいとう・たかを、池上りょう(池上遼一)、「あしたのジョー」のちばてつや等が挙げられます。

前述の通り、私は少女漫画やその作家たちをよく知らないので、当然本書で取り上げられている萩尾望都、山岸凉子、美内すずえ、わたなべまさこ等の作品をあまり読んでいません。いずれこの辺りも読んでみたいと思っています。

一つ残念なのがこの評論が1990年までなので私のすきな伊藤潤二の記述がなかったことです。本書は前半は戦後の怪奇マンガの歴史、後半はそれぞれの漫画家の評論とかなりボリュームがあります。私より年配の方でこの辺りの知識が豊富な方はより楽しめると思います。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. hacker2019-05-11 18:16

    darklyさん、こんにちは。諸星大二郎は面白いですよ。私もレビューを書いていますから、よかったら、参考にしてください。

    『彼方より 諸星大二郎自選短編集』https://www.honzuki.jp/book/139021/review/40978/

    『汝、神になれ 鬼になれ 諸星大二郎自選短編集』https://www.honzuki.jp/book/139022/review/41084/

  2. darkly2019-05-11 19:27

    コメントありがとうございます。着想が独特で面白そうですね。読むのが楽しみです。

  3. darkly2019-05-13 08:09

    書評に書かせて頂いた孔雀王の荻野真さんが死去されたようです。ご冥福をお祈りします。

  4. No Image

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