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セーヌ川左岸のその書店は、寄る辺ない物書きたちの避難所だった。超個性的な老店主に拾われ、本棚の隙間で仲間と暮らしたパリの日々を綴るノンフィクション。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々
この本を書いたのは、カナダの新聞社の元犯罪記者である。仕事に毒され善悪の基準が少なからずマヒした彼は、命に関わる脅迫を受けて急いでパリに逃げ出した。手持ちのお金も尽きかけ、にっちもさっちも行かなくなった頃、彼は偶然セーヌ川の傍の書店で雨宿りをする。店内は本棚とベッドだらけの迷路で、突然お茶会に誘われたりスープ飲むかと聞かれたり。風変わりな人間が闊歩する異界にまぎれこんだようで、彼は混乱してしまう。

「ここはいったい何なの?」
「この店はシェルターのようなものなの。ジョージは来た人をただで泊めてあげるのよ。」

ジョージに拾われ、書店で暮らしたパリの日々の記録である。この店は、ヘミングウェイがパリの思い出を綴った『移動祝祭日』の中に出てくる英米人作家のたまり場「シェイクスピア&カンパニー書店」が閉店して10年後にできた二代目だ。
初代の精神を受け継ぐ店のモットーは、「見知らぬ人に冷たくするな。変装した天使かもしれないから」。店主のジョージはアメリカ人で、80半ばにして恐ろしく元気なじいちゃんである。

作者が描くジョージは、放浪の夢想家で才能ある物書きで、バイタリティーに溢れ心が広く、エキセントリックで強情者だ。倹約家なのにお金の保管にはルーズだとか、周囲は矛盾した言動に戸惑いながらも、王様を仰ぐように寵を競ってしまう。共同生活を送る仲間たちにしても店に集う人々にしても、深い洞察力でその表面と心の中を同時に掬い上げ、実に生き生きと描き出されている。店の喧騒も人いきれも、そのままに伝わってくる。

ものすごく色んな出会いがあり、好きなだけ本が読めるところで暮らすって、一見ユートピアみたいだが、食の楽しみは少なくシャワーは無く、時にベッドは取り合いになり、人生の前途は不安だらけだ。

それでも、人生を愛する気持ちは、真剣に誰かを思いやり誰かに思いやられる体験から生まれるのかもしれない。老いたジョージの心底の願いに光が射しこみ、作者が書店から次の一歩を踏み出してゆく、ほのかな温かみに満ちた終幕がとても素敵だ。
    • 書店の外観。パリ観光名所のひとつです。
    • 内部はこんな感じ。
    • 最近はトートバッグも売っている。これ欲しい。
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  • 掲載日:2018/09/17
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