ちゅーりっぷ保育園に通うしげるが主人公です。
この保育園にはすごくたくさんのお約束があります。並べて書かれるとずいぶん窮屈な感じがしますがよく読むとごく普通の「してはいけないこと」で危ないことやほかの人が困ること、衛生的じゃないことなんかをしないようにっていうお約束です。
でもなんだか面倒でここまで言わなくてもでもいいんじゃない?って感じてしまうのは 型にはまらない元気でやんちゃなしげるの気持ちに読み手が寄り添ってしまうから。
お母さんや先生に叱られないように気を付けておとなしく過ごすなんて無理な少年です。
そして当時は「おしいれの冒険」という絵本にもあったみたいに 保育園にも悪さをしたりお約束を守れないこどもは「お仕置き」として閉じ込められる場所が用意されているんです。今ではあんまり聞かないけれど親も子供を叱る時、おしりをたたくとか家の外へ放り出すとか、どこかお仕置きにつかう場所に閉じ込めるっていうのは結構定番で簡単にどれもこれもひっくるめて「虐待」とは言わなかった。
読んでいるうちに ああ時代が変わったんだよなと感じる場面や表現があちらこちらに見受けれます。
(それでもこの物語の面白さは不変だと思いますが)
内容は「ちゅーりっぷほいくえん」から始まり、表題の「いやいやえん」を最後に7編です。
以下ひとつひとつ簡単に紹介と感想です。
「くじらとり」
年長さんのほしぐみの男の子たちが、積み木で大きな舟を作って、くじらとりに出かけるお話。
私の通っていた幼稚園にも大きな積み木があったっけと思い出しました。
海に出て行ったりくじらはとれなかったけれど、積み木を簡単に一部分積み上げただけで、おうちの門や壁ができ、おままごとの世界では壁も床もちゃんと揃った立派なおうちだったんだと思います。
だから、「船」が海に繰り出し、のんきなくじらを連れて帰って(逆にくじらにひっぱってもらって)戻ってきても、それが「夢だった」とかそんなオチがないところがほほえましく思えます。
女の子たちは船には乗らず、帰ってきた船員を花を持って迎えるっていうのを遊びの中でも普通にしていることも、少々時代を感じます。
「ちこちゃん」
先にお掃除のために積み上げた机に乗っていたのはちこちゃんです。なのにちこちゃんが叱られたっていう話はありません。
ちこちゃんを退かせてしげるが上り、崩れかけた机で危ない目にあったのはしげるです。そして「ちこちゃんがしたから」(自分もした)という言い訳ばかりするのがしげるです。
ここではちこちゃんが叱られたかどうかはそう問題ではないのかもしれませんね。私は気になったけれど。
先生のお仕置き?ではちこちゃんの(女の子の)服を着せられます。そうすると勝手にちこちゃんと同じことをしてしまい、おままごとのエプロンが勝手につけられたり「ちゃんばらごっこ」がしたいんのになぜだかお人形をおんぶしていたりということが起こる、という不思議な「災難」でした。
先生は別に魔法使いではないし、これも「夢でした」ってオチではありません。
現実にありがちなこどもの「言い訳」とファンタジー的な展開が 軽やかなおかしみを与えてくれます。やたら教訓的にならないところがこの作品全体のほんわかした良さだと思います。
「やまのこぐちゃん」
こぐまが保育園にやってきます。(昨今の熊出没でくまの存在が「かわいい」だけで済まなくなったのは悲しいことですが)
かわいい子熊でも一歩退いて遠目で見るほかの園児に対し、しげるはすぐに話しかけて仲良くなります。やっぱりしげるはただの悪い子 困った子じゃない。相手を受け容れることのできる素敵なこどもです。
みんなを脅かさないようこっそり迎えに来たお母さん熊と一緒にこぐちゃんがおうちに帰っていくまでの温かな優しい物語です。
「おおかみ」
しげるは保育園をさぼります。そんなしげるを野原でおおかみが見つけます。おいしそうな子供かとおもったのもつかの間、しげるの汚れた顔や泥のついた手足に食欲減退、「洗ってから食べよう」とおおかみはお湯を用意します。
先に清潔になったしげるにおおかみは同じ子供と気づかないところが面白い。
おおかみが子供を食うなんて恐ろし気な話ですが、おおかみさんのちょっと抜けたところと危険や悪意を感じないまま遠ざけるしげるの姿にほっこりします。
「山のぼり」
りんご木でいっぱいの山、ばななの木でいっぱいの山、みかんの木の山とももの木の山の間には真っ暗な山があります。子供たちは先生に 今日は山登りをしたいと言い、約束をひとつします。それはどのくだものも一個ずつしか食べないこと。
予想にたがわず、しげるは真っ先に大きなくだものを一つ、そしてみんながまだどれを食べるか迷っているのを待つ間にもう一つたべます。もちろん最後のももの木のある山に行く前におなかいっぱい。黒い山のところでみんなが戻るまで休憩することにします。
おなかがつかえて曲がりくねった黒い山の木の隙間にはまったまま動けなくなるしげる。助けてくれたのはなんと鬼のこども。
黒い山でも暗さや怖さは無くてしげるも怖がっていないし、鬼の子も気のいいキャラクターです。
これも、しげるが約束を破って食べすぎたからこんな怖い目にあうとかそういう教訓話ではないところがいいと思います。
そして「いやいやえん」。
しげるが何でもいやだいやだと言うので行かされるのが「いやいやえん」。
いやいやえんではいやなことはしなくていいのです。さあ、そこでしげるは楽しく過ごせるでしょうか。
車のおもちゃの赤い色が女の子の色だから嫌っていうのは今ではあまりピンときません。
(ランドセルは女子は赤、男子は黒が当たり前の時代もありましたが 今ではカラフルです。ただ女児が赤系以外に青系、黒や茶色、パステルカラーの各色が受け入れられたのに対し男児はまだ種類が限られている気がします)
後で赤が嫌いなら赤いクレヨンは不要だからと赤がないため、消防車の絵が描けないという「不便」が発生します。お弁当が嫌いだと言ったせいでお弁当も食べられない、ということもあります。
嫌なことはしなくていい、ちゅーりっぷ保育園みたいなやってはいけないお約束なんてなく、けんかもし放題、そんな「いやいやえん」の居心地はしげるにはどうだったでしょうか。
そういうお話です。
いやだいやだってわがまま言ってごめんなさいって言うありがちな「反省」で締めくくるのではなく、お約束だらけの「ちゅーりっぷ保育園」の良さへの気づきの言葉で終わるというのがこの作品全体を通した前向きで軽やかで明るいトーンを表していると思います。
同じ作家さんの「ぐりとぐら」と「そらいろのたね」も素敵な作品で大好きです。
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