「女殺油地獄」
近松晩年の世話物浄瑠璃で、現代も人気の高い演目ですが、初演当時は不評であったようです。
油屋の河内屋の次男与兵衛は、放蕩の果て親に勘当された挙句、同じ油屋の豊島屋七左衛門の妻お吉に金を無心、断られるや否やお吉を殺害し、店の金を奪って逃げます。それまでのしっぽりした心中物とは異なる斬新なストーリーで刺激的です。与兵衛には、他の作品の主人公に見られるような同情の余地はまったくなく、根っからの悪人です。
しかしそれは、当時の観衆が求めるストーリーではなかったのかもしれません。与兵衛の両親の、子を思う心には同情し、涙を誘われはするものの、何よりも、幼い3人の娘を残して惨殺されたお吉が気の毒でなりません。親切すぎる気性が仇となってしまいました。
それでも、恋敵とのけんかのシーンや親への暴力など派手なアクションは魅力で、特にこぼれた油に滑りながらの殺害のシーンは迫力があります。改めて、斬新で面白い作品だと思いました。
「出世景清」
幸若舞の「景清」を下敷きにしたと言われる時代物です。平家の一族でありながら生き残った悪七兵衛景清は、頼朝を討とうとしてついには捕らわれの身となりますが、観世音が身代わりとなってその命を助けたため、そのことに感じ入った頼朝が景清を許します。頼朝をありがたく思う気持ちと敵と思う気持ちに引き裂かれた景清は、頼朝を見ぬようにと自らの目玉をくり抜きます。
戦いと裏切り、見事な大立ち回りと、見せ場と思われる派手なシーンが多々あり、人気の演目となった様子がうかがえます。
私が特に印象深かったのは、景清を取り巻く2人の女。正妻の小野姫と遊女の阿古屋。嫉妬から景清を訴人してしまった阿古屋を決して許さず、幼い子供たちまで殺させた男はあまりに身勝手。女はあまりにもあわれ。ありがたいのは頼朝よりも、牢屋を訪ねてくる女たちだろうとつっこみたくなります。
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