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日本びいきのアメリカ人が事故死する。事件の真相は?<劇中劇「石に願いを」>

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
花よりも花の如く (第7巻)
能楽師お仕事コミック、7巻目。

普段は能三昧の憲人に、テレビドラマ出演の話が舞い込む。主役ではないが、結構重要な役。役の上でも能楽師という設定である。
どうやら「本物の能楽師」がこの役をやることに意義があるらしいと感じた憲人は、戸惑いながらも精一杯演じることに。

この巻の大半はそのドラマが劇中劇的に描かれる。
タイトルは「石に願いを」。飛鳥の石舞台での野外能から始まる。
連続ドラマではなく、単発と思われる。サスペンス風人間ドラマというところか。
主人公は日系アメリカ人のレニー。日本びいきの友人エヴァンが来日し、研究職で働きながら能を習っていたのだが、事故死した。レニーはエヴァンの部屋を片付けがてら、しばらく能の稽古をつけてもらうことにしていた。レニーは役者でもあり、またエヴァンが魅かれていた能に興味もあったのだ。その稽古をつけることになったのが憲人が演じる藤哉である。
レニーは現代劇とはずいぶん違う能の演じ方、稽古の作法に戸惑いつつも魅かれていく。
一方で、エヴァンの死が本当に単純な事故死だったのか、疑問も生じてくる。川に落ちたというのだが、泥酔したわけでもなく、健康な若者が、理由もなく川に落ちたりするものだろうか。藤哉たち、能楽堂に関わる人たちも何かどこか隠しているようだ。
あけっぴろげでストレートなレニーには、思うことをはっきり言わない日本人がどこかもどかしくもある。
エヴァンの部屋で石が入ったお守りを見つけるレニー。藤哉も同じお守りを持っているようだ。これには何か意味があるのだろうか。
果たして真相は。

本作で出てくる能は「菊慈童」「藤戸」「岩船」「弱法師」。
いずれも緩やかにストーリーと関連する。
「藤戸」はなかなかの難曲だという。源平合戦の話である。
佐々木盛綱は藤戸の合戦で勝利を収めた。膠着していた戦況を制することができたのは、一人の若い漁師の助言があったからだった。源氏方の陣は平家の陣と海を隔てていた。しかし、その海は潮の具合で、ある日時には馬が渡れる浅瀬ができるのだという。この秘密を敵にも味方にも知らせたくなかった盛綱は、この漁師を殺し口封じをしてしまう。
戦功を上げた彼は、この地を領地として賜る。彼の前に1人の老婆が現れ、子を殺されたと訴える。若い漁師の母だった。盛綱は最初はしらを切ろうとするが、老母の訴えに負け、罪を認め、漁師を弔うと約束する。
法要を営む盛綱。今度は漁師の亡霊が現れ、ひとしきり恨み言を言うが、菩提を弔われたおかげで成仏していく。

実のところ、エヴァンの事故死の陰には、戦禍に翻弄された人の物語があった。
戦争で苦しむのは庶民。
現代にも通じるテーマがドラマの通奏低音にもなっている。
  • 掲載日:2024/09/12
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