グアダルーペ・ネッテルというと
『赤い魚の夫婦』でショッキングとも言えそうな短編を読ませてもらったのですが、本作もその系列に並ぶような短編集です。
いや、これが持ち味なんでしょうね。
まずはどんな作品なのか、収録作品から何作かご紹介しましょう。
○ 眼瞼下垂
眼科医の補助的に、その依頼で手術を受ける患者の術前、術後の写真を撮影している写真家がいました。語り手はその写真家の息子。
父親の手伝いをしているのですが、自分で撮影するようなことは滅多にありませんでした。しかし、眼の写真撮影の助手を続けているうちに、他人の眼(というかまぶた)が気になるようになるのです。
依頼主の医師は名医との評判も高いのですが、わずか、ほんのわずか、手術後にはその医師の共通の手跡のようなものがまぶたに残ることに気付いてしまうのです。
そうしたところ、ある日、忘れられないような眼を持つ少女が写真館にやって来ました。
君には手術を受けて欲しくない……。
○ 盆栽
毎週日曜日、一人で公園に通っている男性がいました。特に植物が好きというわけでもないのですが、その公園や近くのカフェで持参した本を読んでいたのです。
ある日、妻とその公園の話になり、妻は公園内の温室にいたという老園庭の話をします。友達は気持ちが悪いと言って避けていたけれど、私は結構親しくしていたんだと言うのです。
男性は温室に行った記憶もないのですが、ある日、なんとはなしに温室に行ってみました。妻が話していた老園庭はいませんでした。どうやら土曜日に来る時があるとか。
男性は今度は土曜日に出かけていき、その老園庭と出会います。
老園庭は何故か男性の名前を知っており、既知の間柄のように何の違和感もなく話し始めるのです。
妻にはそのことは話していません。隠すつもりもないのですが……。男性は、以後、毎土曜日に温室に行くようになり、それまで大して興味が無かった植物に惹かれていきます。
そうして、自分はサボテンに似ていると思うようになります。
それなら妻はどんな植物に似ているのだろう?
○ 花びら
なんともショッキングな話です。
語り手は女性トイレの排尿の跡に異常な執着を持つ男。
いつもレストランなどの女性トイレに入り込み、便器などに残されている排尿の跡やその匂いを観察(?)しているのです。そしてある時、非常に惹かれる尿跡を発見するのです。男はその主に『フロール』(花)という名前をつけ、執拗にその女性の排尿跡を探し始めるのです。
こう書くとほとんど変質者なのですが(まあそうかもしれない)、こんな話を書いてしまうとは。
○ ベゾアール石
精神を病み、治療施設に入院している女性の、担当医に向けて書かれた日誌です。
彼女は母親の毛抜きを見つけていたずらしたことがきっかけで、自分の髪の毛などを抜き続けるようになってしまうのです。その度合いはひどく、ハゲてしまうまでに抜き続けるのです。
酒や薬物にも溺れました。そしてある男性と出会います。その男性にも異常なところがあるのです。結局は二人してカウンセリングを受け始め、結局はこの医療施設にたどり着くのですが……。
と、このような作品なのですが、『不穏』よりももっと強烈な感情を引き起こされるような作品もあります。
心理的にじわじわ来るのですが、なんでしょうか、この感覚は。ホラーでもないし。
非常に独特な世界を持った作家さんでしょう。
読了時間メーター
□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)/141ページ:2026/03/21
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