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これを読んだ人は、人生に何が起ころうと「そんなのたいしたことじゃないよ」って思えるようになるだろう。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
アンジェラの灰  新潮クレスト・ブックス
この極貧アイルランド家庭の状況は悲惨きわまりない。なのに、時折こらえ切れない笑いがこみあげてくる。軽快で、ユーモラスで、胸にズキンとこたえる。驚いた・・・この話が事実だということも、処女作だということにも。本書でピューリッツァー賞・伝記部門(1997)をかっさらった作者こそ、主人公のフランク少年である。

フランクは1930年にニューヨークで生まれる。両親は“できちゃった婚”である。父は飲んだくれで家族を養う能力がない。子どもはボロボロ生まれるが、食べさせてやれない。アメリカにいる親戚には故郷へ帰れと追い払われ、故郷アイルランドでも一家は親戚中の厄介者だ。食うや食わずの暮らしの中で、妹も双子の弟も次々と死んでしまう。生き残った兄弟は、全部で4人。

子どもたちには卑屈さのかけらもない。それどころか抜群に逞しく、したたかで純粋だ。「パパは三位一体だから。」父は稼ぎを全部飲んじゃうけど、朝には普通の親と同じに新聞を読んでいるし、僕らにお話を聞かせてくれる。母アンジェラは涙が乾く暇もないのに、子どものためなら(石炭と食料のためなら)どんな恥ずかしい事もいとわない。ひとつひとつの挿話は滑稽だが、生活苦は目を覆わんばかりで、人を救うべき教会も冷たい。しかし、その記憶はいつしか切ない懐かしみを帯び、愛の物語へと変容してゆく。

フランクが初めて行なった「告解」に、司祭様が口を押さえてしばし震える場面には爆笑した。初めて知ったシェイクスピアのたった二行が、いつまでもフランクの心にこだまする。現実を追い払ってくれる世界には惹かれるけれど、働いてお金を稼ぐこともすごく大事なフランク。大人への階段を、希望を失わずしぶとく登ってゆく少年の姿、ユーモアをたたえ時に抒情的な作者の語り口が素晴らしい。

「あとがき」によれば、作者はニューヨークのエリート校の英語教師だったそうだ。本書は、14歳で働きに出たフランクが旅費を貯めアメリカへ旅立つところで終わる。あんな貧乏なのに、どうやって大学に行くのかな。続編『アンジェラの祈り』を読むのが楽しみだ。
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  • 掲載日:2014/10/06
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