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「おとうさん」を道具に使った、怖い児童書。 「世界は今のここの、一つだけじゃあない」っていう、子供の頃の確信は、 いったい、いつから薄まって無くなっていってしまったんだろう。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)
  • by
  • 出版社:理論社
おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)
618 三田村信行 「おとうさんがいっぱい」

「おとうさん」を道具に使った、怖い児童書。
「世界は今のここの、一つだけじゃあない」っていう、子供の頃の確信は、
いったいいつ頃から薄まって無くなっていってしまったんだろう。

書評サイトでのベテランさんの文章に誘われて、読むことにした。

一人だけ、置いていかれる。
私だけ、時間が止まってしまう。
いつまでたっても、辿り着けない。
ぜったいに、出られない。
選ばれて、消滅するかもしれない。
出られなくなった人に、接してしまう。

いずれも「怖い」。とても怖い。
ただ「怖い」というものではなく、子どもの頃の「死」のイメージに近いと言える。
(今でも大きく変わってはいないが・・・)

それでも、こうした出来事が自分に降りかかることが「当たりまえの世界」というものが、
かなり自分の近くにある事を、子どもの頃には感じて、そういうものだと腹落ちしていた。

【ゆめであいましょう】
【どこにもゆけない道】 
【ぼくは五階で】
【おとうさんがいっぱい】
【かべは知っていた】

児童書だからといって、侮ってはいけない。
恐いことが起こる瞬間の描写は生々しく迫ってくるし、
災厄が自分に降りかかる「反転」の瞬間も見事で、奈落の底に落ちていく。

ぼくがみるみる形を変えていく。
まっくらな空間が、ぽっかりと口をあけ・・・
お父さんは急に空気が抜けた風船のように、ぺしゃんこになっていった。

子どもの頃「怖いもの」が現れた時に、それに近づいていかなかった事は、まず無い。

落盤するから、狂犬病の犬が住んでいるから、変な菌がいるから、絶対に入るな、
と言われた防空壕には、当然のように秘密探検隊を組んで赴く。
(現場でパニックを起こした者は、長年ヘタレのレッテルを貼られることになる・・・)

キャンプでも、臨海林間学校でも「きもだめし」は定番だった。
子どもは「怖いことが大好き」だ。本能なんだ。

大人になったからといって、あのスリルに近づかない手はないだろう。

版元の理論社のHPを見たら
「こどもがおとなにそだつ本 おとながこどもにかえる本」
のコピーがあった。
なるほど~。

(2024/1/21)
  • 掲載日:2024/06/25
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