戦後の復興期、伊沢商事に勤めるサラリーマンの社宅で繰り広げられる妻たちの人間模様。
ー 思春期を迎えた息子の言動に一喜一憂する専業主婦
ー アクティブで株に嵌まっている財テク夫人
ー 海外赴任帰り人畜無害のインテリママ
ー 現実主義のど根性で存在感をみせる大阪出身の主婦
『誰が考え出したのか知らないけれど、社宅なんて残酷この上もない制度だと思うわ。一家ぐるみで会社に二十四時間も拘束されることになるんですもんね。』
一帯に住む家族すべてが同じ会社に勤めているもの同士である。亭主の会社における地位や身分が包み隠さず妻たちに伝わる。亭主の身分が社宅における妻どおしの上下を形成する。そして妻たちの噂話が亭主たちに伝わっていき、会社生活に微妙に影響する世界。何とも息苦しい社宅生活を有吉佐和子は生々しく描き出している。
主人公は時枝音子。一癖も二癖もある周りの主婦たちに翻弄されながら健気に社宅生活を生き抜く物語と思いきや、彼女もなかなかの曲者である。虚栄心、嫉妬心、妄想癖の塊で序盤こそ周囲に翻弄される姿が描かれるが、一人息子が思春期を迎え、学業の低迷や進路への迷い、そして男の子から男性に変貌する様を目の前にすると彼女の言動は空回りし始める。息子や学校担任に不用意な発言を繰り返したり、大阪赴任時代のママ友に対する猜疑心や嫉妬心からそこかしこに悪口を触れ回ったり・・・。読んでいて痛々しい。
モーレツ時代の一流会社に勤める亭主たち。皆が必死で働き成果をあげる会社にあって、出世競争で差が付くのは学歴だとか妻の出自など些細なところ、というのも今の時代では考えられない。そのような会社事情が社宅での妻たちの暮らしに大きく影響している。数年前には下にいた後輩が花形部署への抜擢で自分と同じ管理職にのし上がってきた音子の亭主の心中はいかばかりか。そして、音子にも後輩の妻への嫉妬心が燃え上がる。表面上はニコニコと会話している音子の心の底を有吉佐和子は容赦なく抉り出す。怖い。
嫉妬と猜疑が噂話や悪口をともなって500頁超にわたって描き出されている物語は読んでいて辛くなりそうだが、意外と引き込まれて読むことができた。人間の弱い部分、醜い部分を作者が巧みに描き出してくれていて、ちょっとした人間観察の気分で読み進めることができた。
ラストシーンがこれまでのドロドロとは打って変わった穏やかな描写となっており、「さすが有吉佐和子!」と唸らされた。
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