三浦綾子氏は、世間的には『氷点』で有名な作家だが、私は「プロテスタントの作家である」という文脈から、友人に教えてもらった。本書はそんな折に、様々な縁が重なって私の手元にやってきた。
元々、宗教絵画の鑑賞はわりあい好きだ。ルネサンス期の、ギリシャ神話とキリスト教が融合した多彩な絵のみならず、キリスト教をモチーフにした絵画は枚挙にいとまがない。
かつて、聖書はラテン語で書かれたものであったから、文字が読めない庶民にとって絵画は、キリスト教の教えを知る数少ない手段のひとつだったのだろう。プロテスタント(改革派)が各地の言語で翻訳された聖書を読む、という改革をしてもなお、識字率の低い人々に対する絵画での布教活動は、キリスト教のヨーロッパでの拡大に大きな影響を与えたに違いない。
本書で紹介されるのは、キリストの生涯を時系列順に並べた四四枚の絵画だ。ふつう、絵画鑑賞というとその作品が描かれた時代背景、作者の経歴、どんな場面を描いているのかといった解説がついていることが多いが、本書で三浦氏は「どんな場面を描いているのか」に特化した解説文を書いている。それも、クリスチャンの観点から「なぜ、この場面が重要なのか」を記している点に特徴がある。
日本在住のプロテスタントで、同じことができる人がどれくらいいるのだろうか。私自身は血縁者にプロテスタントが多いのだが、私の周囲がホットスポットなだけだと理解している。日本全体で見るとプロテスタントの母数自体が少ないはずだ。文筆業をたしなむ日本人のクリスチャンの多くはカトリックではないかと思う。特に医療従事者は、カトリックが多いイメージだ(聖路加国際病院の印象が強いだけかもしれないが)。
日本において、自らの信仰を筆致で表すプロテスタントは珍しい。その意味で、三浦氏のほかの著作も読んでみたいと思わせられる作品だった。
(書評執筆日:2025年11月11日)
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