素乾国、槐暦元年2月。崩御した先帝の後を継ぎ、弱冠17歳で素乾国の帝王となった槐宗のために、後宮の宮女募集が行われ、宦官による宮女狩りが全国を訪れます。
後宮に入ればいい服が着れて、しかも三食昼寝付きだと聞いた13歳の童女・銀河も、早速応募、見事宮女候補として選ばれることに。
都に上がった銀河は、他の宮女候補たちと共に女大学で半年間、後宮で必要とされる様々なことを学ぶことになります。
銀河と同室となったのは、同じく田舎出身で、寡黙で無表情、しかし、一旦口を開けば賢い江葉、貴族階級の出身であることを鼻にかけているセシャーミン(世沙明)、そしてセシャーミン以上の身分を持つらしい謎の美女・タミューン(玉遥樹)。
しかしその頃、前帝王妃が継子である新帝王の命を狙っており、しかも国内で反乱軍が蜂起しようとしていたのです--------。
酒見賢一の「後宮小説」は、第1回ファンタジーノベル大賞受賞のデビュー作で、「腹上死であった、と記載されている」という、意表を突いた書き出しには驚かされましたが、これがなかなかの人を食った面白い作品でした。
その名の通り、帝王の持つ後宮にまつわる物語。
明らかに、中国が舞台となっているのですが、全くの架空の王朝を舞台にした、全くの架空の物語。
しかし、まるで史実にあった出来事であるかのように、「素乾書」「乾史」「素乾通鑑」などの架空の史書や文献が登場し、後世の史家の言葉が引用され、作者の意見などもところどころ挿入されることによって、本当にあってもおかしくないなと思わされてしまうほどの、まことしやかなリアリティを生んでいます。
そして、そんな緻密な舞台設定に登場するのは、非常に個性的な人物たち。
無邪気で好奇心が強く、人懐こくて物怖じしない、銀河を始めとして、江葉、セシャーミン、タミューンという三人のルームメイトたちもそれぞれに個性的で、そのやりとりが面白いですし、その他にも謎の美女・双槐樹や角先生などといった魅力的な人物が登場します。
後宮に入るための女大学での実践的な講義も、なかなか面白い。
ここで学ぶことは、後宮に入るに当たっての心得や礼儀、そして肝心要となる房中術。
本来、女性同士の寵愛争いや、その背後に控える、宦官たちの権力争いの場というイメージのある「後宮」なのですが、角先生によって、房中術は一つの哲学として完成されており、まるで淫靡な感じがしないですね。
健康的で建設的なものさえ感じます。やはりあっけらかんとした銀河の魅力が大きいのかもしれません。
それに、後宮で使うという淫雅語も可笑しいのですが、露骨な性的行為の表現までが、どこか人を食った物になっており、作者のユーモア感覚には脱帽です。
この書評へのコメント