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こちらはギリシャ神話に北欧神話(エッダの叙事詩)の紹介も兼ねた本。どちらの神話もまさに物語で、圧倒的に平易に書かれている。ギリシャ神話の入門編として最適。どうやら著者は北欧文学がご専門のようだ。

  • ギリシャ神話―付・北欧神話 (1963年)
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  • 出版社:社会思想社
ギリシャ神話―付・北欧神話 (1963年)
こちらも古い本だがギリシャ神話と北欧神話の物語を中心とした本。

どちらも筋書き重視なのは明らかで、細かいところは一切出てこない。ギリシャ神話は、「世界のはじめと神々」と題する章から「トロイ戦争」まで、オリンポスの十二神の紹介、ゼウスの愛人たちの物語、怒れる神の罰を受けた人間たち、ヘラクレスの一生などをまとめている。こちらは読んで分かり易い物語に徹しており、挙げた話以外にも有名な話は一通り織り込んである。ギリシャ神話の入門なら新潮文庫の呉茂一版よりこちらがお勧である。また、呉茂一版では書き落とされている、些末ではあるが大事なことがこちらではきちんと書かれていることがわかった。
例えば世界のはじめでの場合。カオス(混沌)がガイア(大地)を産みガイアがウラノス(天)を産み、ガイアとウラノスが交わってたくさんの子供が生まれたが、後の方の子は怪物だったのでウラノスが地底に押し込めてしまった。これを恨んだガイアは最後に生まれたクロノスをけしかけてウラノスの陽物(本書では男根)を切らせて、クロノスの支配が確立したとなる。呉茂一版を読んで僕はウラノスが死んだと解釈したが、実は陽物を切られたウラノスがどうしたかはっきり書かれていない。本書では陽物を切られたウラノスは恥ずかしくなって二度と世間に現れなくなったと書かれていた。
冥界の王ハデスがなぜプルートンとも呼ばれるのかも本書に説明があった。ハデスは掴んだものは離さない強欲な神で、そこから富める者(プルートン)と言う名が出来たという。
デメテルの娘ペルセフォネの話の場合。ペルセフォネは冥界の王ハデスに惚れられ、ちょっとした隙にデメテルの元から誘拐された。デメテルのあまりの悲しみにゼウスのとりなしでペルセフォネはデメテルの所に戻されることになったが、その前にハデスはペルセフォネにザクロを食べさせる。この行為の意味が呉茂一版には書かれていなかったが、冥界でザクロを食べた者はまた冥界に戻らねばならない、と言うことらしい(確かに、なぜザクロを食べると冥界に戻らねばならないのか、その因果関係はわからないが、神話においてそう考えられていたと言う説明があるだけでも分かり易い)。
タンタロスの受けた罰の場合。彼は神々から不死を与えられた人間でそれを得意がっていた。彼は神々を祝宴に招き、息子ペブロスを殺して食事に出した。神々はそれに気づいて食事を食べなかったが、娘のペルセフォネが行方知れず、心ここになかったデメテルだけが飲み下してしまった。呉茂一版ではこの逸話だけが出てくるが、本書では、神々がペブロスを生き返らせた時にデメテルが食べた部分は象牙で補強したと書かれている。
*ちなみにタンタロスは神々を試した罪で、水を飲もうとすれば水面が下がり、頭上の果実を取ろうとすれば木の枝が上がって行くと言う、渇きと飢えの永遠の刑罰を受けることになった。

北欧神話も世界創造から説き起こされる。元は北欧のエッダの詩で、宇宙を貫く樹に主神オーディンが座るアスガルド(神の聖域)があり、ギリシャ神話同様に数々の神がそこにいる。他に人間の住む中つ国、巨人の住むヨンムガルトなどが宇宙樹に支えられている。神々には、巨人族と言う大きな敵がおり、また岩の隙間には小人が隠れている。北欧神話では、人間は、男がトネリコの枝、女が楡の枝にオーディンが生命を吹き込んで作られたとされる。振れば一撃で巨人も倒すミョルニールの槌を持つ、オーディンの弟とも息子とも言われるトールの物語、ギリシャ神話ではアポロンに相当する美しいバルドルの死、青春と若さの神イドゥンが巨人族にかどわかされた話、元は巨人族でオーディンの義理の弟になったいたずら好きのロキの物語、アスガルドの城壁作り、など16話が語られる。北欧神話では、オーディンを中心とする神々の世界が滅亡することまで書かれている。なぜか最後に、神々の世界の滅亡前の話「龍殺しのシグルド」が置かれているが、これはちょっとしたワーグナーの「ニーベルングの指環」の短縮版となっている。ワーグナーの世界は劇的だが、本書の「龍殺しのシグルド」は素朴な話となっている。

著者はギリシャ語を読めないと言うので、おそらく色々な話を読んで著者なりにまとめたのだろう。冒頭にも書いたが、大人向けの分かり易いギリシャ神話としてはこちらの方が圧倒的に良い。門外漢の視線で書いたことも大きいのではないだろうか。北欧神話の方は他に比較材料がないが、ギリシャ神話同様にエッダのおそらく面白いところを抜粋して説明しているのだろう。本書もかなり古い本ではあるが、本書の評判を聞き、先行してギリシャ神話を出版した呉茂一氏が著者を褒めたそうだ。著者は北欧神話も同時に紹介するという条件で出版社からの依頼に応えた。著者の専門はどうやら北欧文学にあるようだ。
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  • 掲載日:2022/12/10
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