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DBさん
DB
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ワクチン反対派の主張の話
刑事犬養の事件簿ですが、今回は長編でした。
事件のはじまりは神楽坂で十五歳の少女が行方不明になったことだった。
香苗という名の少女は、かろうじて自分の名前は覚えているが道順や電話番号はおろか母親の顔さえ忘れてしまうという認知障害を持っていた。
母子家庭の香苗と母親の綾子は生活保護を受けて精神科の受診を繰り返していたが、発症してから半年、症状は悪化するばかりだった。
そんな香苗を連れて通院の帰り道、綾子が目を離した隙に香苗の姿が消える。
最初は迷子だろうと思っていたが、商店街を探して歩いても見つからず香苗の生徒手帳がハーメルンの笛吹き男の絵葉書と共に残されていることから誘拐らしいと事件になったのだ。

誘拐だとしても母親の経済状況を見れば身代金などとれるはずもなく、犯人からの接触が全くないためわいせつ目的かもしれないとされている中で綾子が子宮頸がんワクチンの反対運動をしていることが明らかになっていく。
香苗の障害もワクチンによるものだというのだ。
生活保護と政治運動が結びつかずに非現実的だったが、犯人が名刺代わりに絵葉書を置いていくというのも十分に非現実的なのでここはフィクションと割り切ろう。

続いてワクチン推進派の医者の高校生になる娘が、そしてワクチンで副作用が出たと訴える少女たちのグループが姿を消していく。
いずれもハーメルンの笛吹き男の絵葉書が残されていることから同一犯だと思われるが、刑事の犬養は自分を嫌っている若い女刑事と組まされてやりにくそうだ。
徐々に捜査の方向が見えてくるが、どこまでが関与していたかという部分はともかく誘拐事件そのものの真相はある程度読んでいる途中で目処がついてくるので意外性はなかった。

なぜかもやもやしたものが残る読後感でしたが、その正体を的確に指摘してくれたのは三省堂書店の新井見枝香氏が書いた解説だった。
子宮頸がんワクチンを巡る利権についての問題はともかく、ワクチンがそれがなければ癌にかかるはずの何万人もの女性の命を救っているという事実をあえて無視して副作用を訴える側の視点でしか書かれていないこと。
どこまでが作者の意図するものなのかは不明だが、いくらフィクションのミステリーだからといって偏った論調で書かれていることに異議を唱えていた。
2016年に上梓されているので子宮頸がんワクチンがいったん中止された後の話なのだろうが、空白の八年間でワクチン接種しそびれた少女たちがどうなるのか、あと十五年くらいしたら結果が出るのだろう。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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