明智小五郎を知ったのは、子どもの頃に『怪人二十面相』を読んだ時である。彼はすでに名探偵として世に知られ、黒いスーツをカッコよく着こなす大人の男だった(髪の毛はモジャモジャだけど)。その後に何作品か読んだが初期の作品は知らなかったゆえに、むむむ・・・笑ってしまった。若き明智くん、派手な棒縞の浴衣にヨレヨレの兵児帯で初登場とは。
明智小五郎の事件簿シリーズ(全12巻)は、かの名探偵の活躍を事件発生順に収めている。第1巻は「D坂の殺人事件」、「幽霊」、「黒手組」、「心理試験」、「屋根裏の散歩者」を収録。明智小五郎はタバコ屋の二階の四畳半に下宿しており、部屋の四隅は天井まで書物で埋まり、まん中にちょっと畳が見えるだけ。いったいどこで寝るんだ?素性や生活の糧も不明、ミステリアスな男である。初登場作品は、明智小五郎がカフェーに陣取り向かいの古本屋を眺めているうちに殺人事件に巻き込まれる。書生や電話交換手がいる戦前の日本、探偵業はまだ素人だが人間心理に通じた明智青年が謎を解き明かしてゆく。
巻末の解説も面白い。平山雄一の「明智小五郎年代記(クロニクル)」は、事件発生順に読む意義、事件の発生日をどうやって特定したのか、時代背景を含めた丁寧な作品解説である。皆川博子の「明智小五郎、探偵デビュー」は、江戸川乱歩について。当時の大衆文学と、そこに乱歩が記した足跡、ご自身と明智小五郎の出会いがエッセイ風に記されている。
皆川先生によれば、大正から昭和初期にかけての大衆文学、中でも江戸川乱歩は「飛び抜けて(子どもが)読んではいけないものだった」そうだ。そのような大人の作品に登場した明智小五郎は、やがて児童向けの<少年探偵団シリーズ>でも活躍する。こんなに幅広い年齢層に好かれている人物って、明智小五郎とルパンとホームズ以外にいるだろうか。元祖・日本の名探偵は、”世界の三大ヒーロー”のひとりではないか!…と考えたら、彼を創り出した江戸川乱歩さん、あなたスゴイ人ですね。(今さら?!)
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