昭和四十七年に偕成社から出版された、皆川博子の初めての長編小説。
児童文学作品。
豊臣から徳川へ、政権が移りつつあったころ。
キリシタンが厳しく弾圧されていた時代の話です。
14歳の伊太と12歳の弥吉は、ポルトガル人商人の長崎の館で働く下人でした。
長崎での商用が終わり、彼らの主人がインドのゴアに戻ることになります。
弥吉は、そんな遠いところに行くのはいやだ、死ぬほど怖いといいます。
伊太は、インドへ行くのもおもしろそうだと思いましたが、弥吉につきあって、脱走を決めました。堺か大阪へ行く船に乗り、密航するつもりでした。
物語は、ふたりが大きな商船を目指して伝馬船を漕ぐ場面から始まります。
岬で、キリスト教の教会が燃えていました。
ふたりがこっそり乗り込んだ船は、堺の大きな商人の船でしたが、行く先はマカオでした。
その船には、伊太と同じ年頃のマチアスという少年が乗っていました。
マチアスは、年少ながらキリスト教の伝道師という使命を帯びていました。
キリシタンだった伊太の両親は、棄教を拒否して火あぶりにされました。
マチアスはさる大名の女中の私生児でした。キリシタンだった母は、幼いわが子を宣教師に託し、殉教したのでした。
弥助は、キリシタンとは無縁の貧しい子だくさんの家の子。
三人三様のキリシタンとの絡みや距離があります。
物語の舞台は、船の上、マカオから日本へ、江戸から津軽へと、移り変わります。
少年たちも、青年へと成長します。
話の展開は早く、階段を上るようにトントンと進みます。
正義感が強く冒険心に富んだ伊太。
計算高く堅実な弥助。
曇りない信仰心で、みずからを逆境に置き、キリスト教を広めようとするマチアス。
平易な言葉と文章で、歴史的背景もきちんと書き込まれ、物語の底流には、宗教とは何かという重い問いかけが常にあります。
この作品で作者が問い続けたテーマは、2013年に出版された一般向けの小説、
「夏至祭の果て」となって結実します。
「皆川博子コレクション5」には、他にも初期の児童文学作品を中心に以下の長編、短編5作品が収録されています。
「炎のように鳥のように」、「シュプールは死を描く」、「昏い扉」「戦場の水たまり」「コンクリ虫」
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