『かわいい女・犬を連れた奥さん』チェーホフ作 小笠原豊樹訳を読む。
『犬を連れた奥さん』チェーホフの不倫もの名作短篇なんですってね。「後家の狆(チン)」じゃ、なんかエロビデオのタイトルみたいやし。うちのトイプー、セントバーナードぐらいの大きさ、ありますし。道ならぬ秘めた恋ほど燃え上がる。ま、わたしの美貌と財力があれば、そんな秘めなくとも。運転手付きのロールスロイスでたこ焼き、買(こ)うてるわたしにはね…。(なぜか上沼美恵子の口調で)
「もってかれた〜」。これは、心奪われるときの決まり文句なんだけど、チェーホフの『犬をつれた奥さん』を読んだら、口をついて出てきた。
ヤルタで休暇中の銀行員グーロフは犬を連れた美貌の人妻アンナに強く惹かれる。最初はでプレイボーイの彼は火遊びのつもりだった。ちぐはぐな二人の思いが行きつ戻りつ。いつしかマジ恋に…。
このあたり。
「時のまにまに、彼は知りあって、ちぎり、別れただけのことで、一度として愛したことはなかった。
あらゆることがあったが、ただ愛だけが欠けていた。そして頭も白くなりかけた今ごろになって、まっとうに、心から―生れてはじめて恋してしまったのだ」
読んだことはないけど、映画やTVドラマで見たことのある藤沢周平あたりにも通じるなあ。オトナになってから初体験する麻疹が重いように、中年の不倫純愛もなかなか性質(たち)が悪そうだ。
『ワーニャ伯父さん/三人姉妹』チェーホフ著
『桜の園/プロポーズ/熊』チェーホフ著
『かもめ』チェーホフ著
『子どもたち・曠野 他十篇』チェーホフ作
『ともしび・谷間他七篇』チェーホフ作
『チェーホフ傑作選 馬のような名字』浦雅春編訳
『新訳 チェーホフ短篇集』沼野充義編訳
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