本作は紅海に面した砂漠に作られたネオムという都市及びその周辺地域を舞台にした未来のお話です。人類は太陽系惑星にも進出しており、ロボットやヒューマノイド、その他様々な物が普通に作られている世界です。
ネオムには素晴らしい都市が建設されていましたが、砂漠は砂漠で残されていました。
どうやら太陽系を巻き込むような大戦争が何度か起きたようなのです。その戦争には多数のロボットなども投入されたようですが、戦後、それらは回収されることもなく遺棄されたのでした。まだ動けるものも多数あり、それらは勝手に人間社会に混じって動き続けていましたし、人々もそれらのロボットと共生する社会を普通に送っているのでした。
さて、ネオムにマリアムというさほど裕福ではない女性が住んでいました。彼女は生活のため様々な仕事をこなしていたのです(金持ちは貧乏人を必要とする……これは作中で語られる言葉です)。
ある日、マリアムが働く花市場に古びたロボットがやって来ました。ロボットは何をするでもなく花を見つめていたのです。
「花を探してるの?」 マリアムが声をかけてみたところ、ロボットは「いえ別に。見とれていただけです。どの花もすごく美しい」と言うのでした。そのロボットには嗅覚がなく、花の香りは分からないらしいのですが。
ロボットとマリアムは少しの間会話を交わすのですが、ロボットは花を買っていきたいと言い出したのです。
「どの花がいい?」
ロボットが選んだのは薔薇の花でした。もう閉店間際だったこともあり、マリアムは一本の薔薇の花をサービスであげたのです。すぐに枯れないように小さな花瓶もつけて。
「ありがとうございます」と言ってロボットは去っていきました。
さて、その後、マリアムの幼馴染で密かにマリアムに想いを抱いている警察官のナセルはそのロボットが砂漠で穴を掘っているのを見つけます。別に違法じゃないけれど……。
すると砂漠にいる兵器ロボットが集結してくるではないですか。まあ、そういうこともあるけれどちょっと危険です。
ナセルは、穴を掘っているロボットに「君がなにをやろうとかまわない。でも危険が近づいている」と声をかけます。
ロボットは、穴から古いロボットを掘り出していたのでした。
掘り出されたロボットは、掘り出したロボットによってある古物商に持ち込まれます。
それはゴールデンマンと呼ばれた伝説的なロボットだったのです。どうやらゴールデンマンは違法なアーティストによって製造されたものらしく、かつて一つの都市を壊滅させたことがある……という伝説的な話も伝わっているのですが、それは遥か昔の話で、ゴールデンマンの存在自体真偽不明だったのです。
「本当にあったのか……」
古物商はバラバラになっているゴールデンマンのパーツを知り合いの腕利きの女性職人のもとに持ち込み、修理を依頼します。
一方、一家で砂漠に埋もれた遺物を掘り出して売るジャンク商売をしていたサレハ少年は、発掘の際に事故に遭い、家族を失っていました。サレハはその際に手に入れた貴重な遺物を持ち、部族からも離れて一人でそれを売りに出かけたのです。
彼は巡り巡ってマリアムと出会い、マリアムは仕事先である古物商(ゴールデンマンが持ち込まれた古物商です)に紹介してやります。
サレハが持ち込んだのは戦時に使われた強力な爆弾でした。
「こ、これは……」絶句する古物商。サレハは、「火星に行きたいんだ。それだけのお金で買ってもらえる?」と尋ねるのですが、非常に貴重なものではあるものの、そうそう売れるものではありませんでした。しかもそれは……。
というお話なのですが、ここまでのレビューをお読みいただいても、一体これはどういう話なの? と思ってしまうかもしれません。確かに……。
でも、それぞれのエピソードは収斂していきます。コア・ストーリーは読み終えてみると非常にシンプルなのです。
未来世界を描いたSFなのですが、それほどSFっぽさは感じませんでした。いえ、細かいギミックや世界観は相当に凝っていて、そこはまさにSFなのですが、コア・ストーリーはある意味でラブ・ストーリーでもあり、ロボットを人に置き換えれば一般小説とさほど変わりないプロットなのです。
この作品、巻末に用語解説が載っています。私、ハヤカワのこの手の用語解説付き作品を何度も読んでいて、読み終わって初めて巻末用語解説の存在に気付き、「もっと早く言ってよ~」と苦言を呈したことが何度もありましたが、本作はそこは丁寧で、見慣れない言葉が出てくるたびに括弧書きで「巻末用語解説を見ろ」とアラームしてくれるんです。これはとても素晴らしいと思ったのですが、検索はもう少し考えてつけて頂いた方が良いと思います。どの語句で検索するかがあやふやで、この言葉は添え字(翻訳された言葉)でしか出ないのか~い的なのは結構あります。あるいは、この言葉はここで引くのか~い! とかね。
これは親切だ! と思ったのですが、参照していくうちにやたらに詳しい世界設定にやや辟易としてきます。本作を書くだけでこんなに深い世界設定が必要? と思ってしまったのですが、巻末解説を読むと、どうやら本作はシリーズものの一つだったようで、詳細な世界設定はシリーズ全体を通じて構築されたもののようなのです。なるほど。
私はシリーズ中の一作と知らず本作を読んだのですが、まったく問題はありませんでした。独立作品としても全然読めてしまいます。詳細な巻末解説も必要に応じて参照すれば十分でしょう。
シリーズのことは全く知らないのですが、本作は非常にシンプルなプロットなので、あるいはスピン・オフ作品なのか? とも思ってしまいました。
読み味としては、やさしさを感じました。
プロットだけをみると、なんということもない話と言えばそうなのですが、そこにやさしい魅力のある作品と思いましたよ。
読了時間メーター
□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)/246ページ:2024/4/16
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