「勝てば官軍、負ければ賊軍」という理屈で、あらゆる地域で戦いに勝った方の歴史だけが書き残されてきました。負けた方、弱い方の歴史は抹殺されるのが歴史の常です。
そんな歴史の中で活躍し、名を遺した人たちは、そのほとんどが男性です。ずっと、そういうものだと信じ込まされてきました。でも、それっておかしくない?と疑問を持った著者は様々な文献を調べ始めました。そして出た結論は、「女性の活躍は意図的に消されて来た」という事でした。
男女の役割分担のような刷り込みが長い時間を掛けて行われてきているという指摘に「あっ」と思ったのです。たとえば「アルタミラ洞窟の壁画」の想像図では、絵を描いているのは男性だし、狩猟時代に狩猟していたのは男性だけということになっていましたけど、最近の発掘調査では、狩猟や戦いをしていた女性もいたということがわかってきました。
人類の歴史全体の視点で見ると、家にいる母親はきわめて最近の発明で、20世紀の西欧文化と密接につながっている。
よく考えてみればわかります。農業や牧畜などの仕事では、男女ともに働いているし、職住接近ですから、母親だけ別というのは考えにくいわけです。産業革命以降にしか、家にいる母親という構図は生まれないわけです。
この本では著者の国、フランスの歴史を中心に語られています。フランスと言えば早い時期に近代化が進んだ国と考えがちですが、実はそうではなかったということがわかります。
たとえば、1965年の夫婦財産制度改革まで、1804年に制定された「ナポレオン法典」が効力を持っていたのです。それまでの法律では「男性は自分の財産と、家庭の共通の財産、そして妻の財産を、本人の同意なしに管理できる」だったとは、ただ驚くばかりです。
様々な法律で、「女性にはできないこと」があったのですが、その中に1つだけ穴がありました。それが「バカロレア」でした。これは高校卒業の証明であり、大学を受験する条件でもあります。これに関しては「女性には与えない」とは書いてなかったのだそうです。そもそも女性に高等教育を受けさせるという考えがなかったので、規則にする必要がないと考えられていたようです。
1861年にバカロレアを取得したドービエという女性が現れ、大学へ進み、文学士号を取得した初のフランス女性となりました。女性は知的に劣るという通説を打破し、女性の経済的自立や参政権などのために戦い続けました。
「訳者あとがき」で、この本を出版するまでの話が語られていました。フランスでベストセラーとなった、この本を読んだ訳者が、すばらしい内容なので日本でも出版したいと何人かの編集者に声を掛けても、あまりいい返事をもらえなかったそうです。後で考えてみたら、その人たちは全員男性でした。
数年後に、この本の出版社である大和書房の女性編集者に話をしたら、すぐに興味を示してもらえたそうです。
この本の原題は「Les grandes oubliées」「忘れ去られた偉大な女性たち」という意味なのですが、日本語題はなんだか情けないタイトルになってしまっているのが残念です。このタイトルでは、この本の言いたいことがちっとも伝わらないと思うのは、わたしだけでしょうか。
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