国学院大学の教授でフランス文学者、マリー・ンディアイの小説などを翻訳でも知られる著者のエッセイ集。
前々から思っていたのだが、翻訳家が綴るエッセイには読み応えのあるすぐれたものが多い気がする。
そんな期待とSNSや図書新聞での高い評価もあいまって気になっていた本だったが、実際に アスファルトの世界を離れ、わたしは秩父へ移り住むことにした――庭と植物、自然と文学が絡み合う土地で、真摯に生きるための「ことば」を探す。
というキャッチコピーを目にしてみると、正直ちょっと手に取るのを躊躇した。
というのも首都圏で生まれ育って北の果ての田舎町に移り住んだ私としては、「移住者」の話はすでにお腹いっぱい感があったからだ。
たとえば、ご近所さんからあれやこれやと食べ物を頂く話や、庭先の植物の種だの苗だのをやりとりする話とかなど、一見すると「すっかりなじんで」いるようにみえるあれこれも、10年、20年たってもやっぱり「よそから来た人」枠にくくられたままで、それはそれでそういうものだとすっかり開き直って暮らしている私からすると…などと、いちいち突っ込みたくなってしまうのだ。
そんなことを思いつつも、少しずつ読み進めると、自分の視野の狭さが恥ずかしくなるぐらい、ガツンとくる連続で…。
「移住」という言葉に含まれがちな都会目線とか、外来植物問題からの外国人排斥の風潮とか、窓から見える風景や、庭の草花、散歩コースで目にしたあれこれ、そういったものから様々な文学作品に繋がり、さらには時代や世相や社会のあれこれへと視界が広がっていく様が何とも見事。
端正な文章と深い知識と洞察力が、読む者に心地よさだけでなく、様々な問題や自身のありかたを問いかけてくる。
そんなつもりは全く無かったのに、またまた読みたい本をどっさり増やしてしまったことも嬉しい誤算だった。
この書評へのコメント