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2011年に勃発したアラブの春。高い失業率、強権政治、国民の絶望感が革命の導火線になり戦火となるシリア。チョコレート工場を失い難民となったハダド一家はカナダで平和を祈り再びチョコレートを作り始める。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
希望のチョコレート: 「平和」への願いをつくり続けるシリア難民家族の物語
副題は「The HADHAD Remarkable Journey From SYRIA to CANADA」

シリアでチョコレート工場を経営し、裕福な暮らしを送っていたイサム・ハダド。
アラブの春が始まり、シリアもその戦火に巻き込まれていく。相変わらず圧政、強権政治を行うアサドと立ち上がる民衆。過激派組織ISはイスラム共同体発展のためと称しシリアの一部を占拠。シリアは混乱に陥り、450万人のシリア人が祖国を離れ、レバノン、ヨルダン、トルコ、ヨーロッパへと向かったと書かれている。

敬虔なイスラム教徒のイサム・ハダドもチョコレート工場を焼かれ、大家族で暮らしていたシリアから着のみ着のままでレバノンへと亡命する。レバノンでは難民として生きるしか無く、医師を目指して大学で勉強していたイサムの長男タレクも例外では無かった。あと少しで医師の資格が取れるところであったが、家族と共にレバノンへ。
レバノンでは少しでも皆の役に立ちたいと難民キャンプのボランティア医師として手伝いを始るタレク。
未来が描けない絶望に苛まれながら、あるタクシー運転手が漏らした「カナダ大使館がシリア学生に奨学金を出している」の情報に一縷の望みを託し申請。そしてラッキーにも面接まで漕ぎ着け「再び学業をやり直すのではなく、医師として働きたい」と訴える。

しっかりと将来を見据えて自分よりコミュニティや家族のことを考えることができる若者ならば、とカナダの移民プログラム責任者から推薦され、家族同伴でカナダへ移住するチャンスが与えられた。
まず、タレクがカナダへ。が、彼が思い描くカナダの都会ではなく、移住先は地方の小さい町アンディゴニッシュであった。
中東から雪深いカナダへ。タレクも戸惑ったが、その後シリアを離れカナダへと向かう家族も困惑していた。
ここで、何ができるのだろうか?
無事にアンディゴニッシュのコミュニティに溶け込めるのだろうか?

アンディゴニッシュのルシール・ハーパーはシリア内戦のニュース番組を見、行動を起こそうと決意していた。
町のコミュニティに働きかけSAFEを立ち上げ、シリア難民を受け入れるべく民間団体として行動を起こしていく。
そして受け入れ第一号に選ばれたのが、タレク・ハダドとその家族であった。

新しい土地で役に立とうと奮闘するタレク。
感謝の念から自分にできる最大のこととしてチョコレート作りを再開し、アンディゴニッシュの人々に無償でチョコレートを配るハダド。
一家を支え、いつも安らぎを与えようと考え、ある時は行動的に、ある時は優しく包み込むハダドの妻シャナーズ。
全く話せない英語を必死に学び、学校に通える幸せを大切にし、努力で学業を終えたタルクの妹バトゥール。
ハダドの作るチョコレートはいつしか工房で生産から、工場生産へ、そして町に雇用を生むようになる。

これは実話であり、タレクは戦争難民としてOECD閣僚理事会で講演もしている。彼は世界平和の促進のために各地を訪れ講演を続けていて、移民とりわけイスラム教徒の移民排斥を公的に掲げる政党が得票を伸ばしていることに移民を受け入れるメソッドを知らせたいと考えているそうだ。

この本が刊行されたのが、コロナが猛威を奮っていた2020年。シリアの戦火はこの後も2024年まで続く。内戦は終結したが、人道援助を必要とする国内避難民は720万人もいるそうだ。
著者は「ピース・チョコレート」をサクセスストーリーと書いているが、確かに全ての難民が移住先でうまく生活できるわけでは無いだろう。世界は益々自国主義に傾いているし。
訳者は、“積極的に難民支援を続けてきたカナダでも、受け入れ人数を制限する事態に陥っている“と書いている。

まずは戦争が世界から無くなり、誰もが安心して暮らせる、そんな日が訪れることを願っている。



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  • 掲載日:2026/04/25
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