クロフツの10作目の小説で傑作の呼び声が高い作品である。これもかなり若い頃に買った作品だと思う。
マギル卿は引退した紡績業の事業家で引退後も紡績技術に関して研究している人である。元々アイルランドに住んでいたが、今はロンドンの邸宅に住んでいた。事業は長男のマルカム少佐が引き継いでいるが経営は思わしくない。事件発生時に、マギル卿はリンネルと人絹の合成に関する新しい技術を考案したらしいと言われる。そんな彼が赤毛の謎の人物コーツの訪問を受け、10月初めに7年ぶりにアイルランドに旅立つところから話が始まる。警察の調査によれば彼は寝台列車に乗り、イギリス西部のストランラー経由で連絡船でくベルファストに着き、タクシーでサンディ街に向かった。そこから日中の消息は忽然と消え、夜になってホワイトヘッドという田舎駅から長男のマルカム少佐宅に電話を入れ、迎えに来て欲しいと言ったそうである。元々アイルランド訪問はマルカム少佐に知らせてあり、朝ホテルで落ち合うことになっていた。しかしマルカム少佐がホテルに向かっても、電話を受けてホワイトヘッドに行っても本人は見つからず、その日は会えずじまいだった。その晩は老人の気まぐれくらいに思ったものの、やがてマギル卿の荷物も届き、翌日にホテルに行っても父にと会えず、マルカム少佐はとうとう警察に届けた。警察の調査からサンディ街に行った後にベルファスト郊外の洞窟丘という断崖にいるのを見られ、その後ホワイトヘッドまでの足取りも浮かんでくる。警察にはX・Y・Zを名乗る投書が来て、マルカム少佐の屋敷が怪しいと書かれていた。警察が屋敷の林を掘るとマギル卿の死体が発掘された。マギル卿の甥のヴィクターも伯父の行方不明を聞いて旅を切り上げて駆けつけたが、死体が発見されるとマルカム少佐同様に大変な驚きぶりだった。フレンチ警部が捜査を担当するが疑わしい者全員にアリバイがあり、犯人特定は難航した。
訳者解説にクロフツの小説は割と犯人が早くわかりアリバイ崩しが焦点とあった。確かに、本書は書店で手にして鋭い人ならすぐに犯人の見当が付きそうな小説である。問題のアリバイ工作とそれを崩す過程は警察の泥臭い捜査が詳細に描かれている。途中から犯人の見当は付き、フレンチ警部のアリバイ崩しに興味が移る。傑作という声があるだけあって、アリバイ工作は精緻を極め、作品の質は高いように思える。一方で後の作品
「クロイドン発12時30分」を読んだ直後だと、大金持ちでケチな被害者と、取り巻く金欠な親族と言う似た様な状況に目が行く。犯罪のプロットが大違いなのではあるが。動機の点では後の作品の「クロイドン発12時30分」の方に工夫の余地があるような気がする。いずれにしても、古典的な推理小説としてはとても良い作品といえる。
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