1840年代後半、ケンタッキー州のスイートホーム農園所有の奴隷ハーレは、主人ガーナーから母親のベビー・サッグスを時間外労働で買い取り、オハイオに移住させた。ベビーの代わりにとスイートホームに買い取られたセスはハーレと結婚し、三人の子どもを奴隷の逃亡を助ける秘密組織「地下鉄道」に託して姑のもとに送っていた。55年には身重の身で自分自身も逃亡に成功したのだが、1ヶ月も経たないうちに追っ手が迫り、セスは三番目の女の子を自らの手で殺してしまう。
逃亡奴隷法は、奴隷がたとえ自由州に逃れたあとでも所有者は財産である逃亡奴隷の返還を請求する権利を持つことを認めている。所有する奴隷が産んだ子どもも所有者のものになる。自分の愛する子どもの命が「汚される」のを防ぐため、セスは「安全」なあの世にわが子を送ったのだ。
それ以降、ベビー・サッグスの家は、母親に殺された赤ん坊の幽霊が怒りと恨みで暴れ回る幽霊屋敷となった。上の二人の男の子が出ていき、ベビーが亡くなり、セスとセスが逃亡中に産んだ四番目の女の子デンヴァーが二人だけで住む幽霊屋敷に、かつてスイートホームにいたポールDがやって来る。ポールDは赤ん坊の幽霊を追い出したが、その後、ビラヴドと名乗る謎の少女が現れた。
セスが赤ん坊の墓碑に刻んだ「ビラヴド」と同じ名の少女。彼女はセスを独り占めにし、セスに話をせがみ続ける。
セスが語る奴隷たちの日常、苦しみは、今の時代ではあまりにも常軌を逸していることばかりで、読んでいるのも辛くなるほどだ。過酷な目にあったのはポールDも同じで、彼らはそうやって自我を打ち砕かれ、それこそ家畜のように扱われてきたのだ。
ビラヴドは、自分の恨みをはらすため、自分の怒りを鎮めるために、どうして自分が殺されなければならなかったかを詳細に知りたがった。セスは、自分が殺した赤ん坊が戻って来てくれたと思い込み、徐々に精神を崩壊させていく。
だが、あまりにも過酷な目にあったために自分をなくしてしまい過去を封じ込めてしまっている者にとって、過去を語ることは自分自身を再構築することでもある。ポールDは決して語ろうとしなかった屈辱的な過去を語ることで少しずつ自分を取り戻していき、ビラヴドが姿を消し「私の宝がなくなった」と崩壊寸前のセスに「おまえ自身が、おまえのかけがえのない宝なんだよ」と言う。
こんなにも酷い出来事が、かつて本当にあったということを決して忘れてはいけないとあらためて思った。
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