鎌倉にあるツバキ文具店。主人公の鳩子(ポッポちゃん)は文具店を営みながら、代書屋をしている。様々な依頼があるが、依頼人の心に寄り添って、代わりに手紙を書いていく話。
代書屋は、宛名や手紙を代わりに書く仕事だということは、おぼろげながら知っていたが、その人とのエピソードを聞き、文章そのものや書体を考え、手紙の内容に応じて、ペンやインクの色、便箋、封筒、切手なども選んでいる職業だとは知らなかった。
この本では鎌倉の美しい光景、人同士の繋がりが美しく書かれている。人との繋がりはあるが、ベトベトした陰湿さはない。鳩子は、先代で祖母との関係で苦しんできた歴史もあるけれど、「手紙」を通じて、祖母の愛情や祖母の悩みを知り、自分の思いに気づいていく。
登場人物を振り返ると、表面に見える部分だけではないもの、普段は人に見せない姿がある。その見せない部分が、その人の深みとなっているのだと思った。代書屋さん(敬意とポッポちゃんへの親しみを込めて、あえて「さんづけ」で呼ぶ。本屋と言うときと、本屋さんと言うときの気分の違いのようなもの)は、人生に関わっていくものだと思った。それをポッポちゃんが自覚しているからこそ、依頼人の話を真剣に聞き、その人になりきって、手紙を書く。だからこそ、産みの苦しみを感じることもある。この正面から人と向き合う、生真面目さが私は好きだ。
手紙を通じて、その人の生活、性格が伝わる。手紙を通して自分と向かい合う。とてもいい時間だ。相手のことを考えながら、手紙を出す行動は素敵だ。また、文字から伝わるもの、勢いや丁寧さ、人柄、感情についても考えるきっかけになった。
この本は、文章だけでなく、「手紙」「イラスト」「文字」がとても素敵で、抱きしめたくなるような、布団の中に持って行きたくなるような、そんな愛しい本だと思う。
そして、小川糸さんらしい、美味しい食べ物、お店もたくさん出てくる。風景描写のリアリティーと美しさもあいまって、鎌倉に行きたくなる小説である。コロナが落ち着いたら、ゆっくりと鎌倉を歩きたくなった。
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