大正13年。東京から大阪、京都と流れようやく女中として奉公先にありついたサチ子17歳。
母は亡く、父も昨年の震災で亡くし兄はどこかにいるが手紙を出しても返事はこない。
しかし、いつも賑やかな柳家の面々に囲まれ、また慣れぬ土地での日々も大変ながらやりがいを感じていた。
働き始めて気が付いたのが、柳家の御主人があの柳宗悦だということ。女学校に上がる前から『白樺』を読んでいたサチはあまりのことに驚く。
柳宗悦に加えて河井寛次郎に濱田庄司も早々に登場し、時には言い争い、やがてやたら意気投合する不思議な彼ら。
やがて新たな美「民藝」の世界を切り開く彼らはまだ冒頭ではちょっと変わった人達。
あちこちから古い布やら木工品、陶磁器など買い集め、その管理の一切を人任せにする柳。
購入したものはしっかり覚えているので、思いついたときにそれが出てこないと癇癪を起すというかなりやっかいな子どものような人物。私なども想像する人物通りに描かれているので非常に話に入りやすい。
この柳宗悦という人はこだわりを持たず、自分がいい!と感じた物にとことん突っ走る人物として描かれているが、その周囲にいる人は巻き込まれ方が半端ない。
サチも、また使用人のばあやもやたら洗濯に追われるが、今のように洗濯機も乾燥機もない時代、しかも「生地を傷めるな」って悪臭漂う古い布を一体どう洗ったものか。
後先考えずいいと思うものを贖ってしまう夫。その財布を握らされた奥様・兼子夫人の頑張りになんとか日々の生活は成り立っている。
広い家に住み、家族に加え使用人が二人いるというのは一見裕福な家庭に見えるけれど、柳家に関してはそうともいえない。
広い家のあちこちは古い「もの」に浸食されているのだから。
兼子夫人が本当に立派。こんな夫やってられないと逃げ出してもおかしくないと思う場面も多い。
けれど夫人は夫の善良な面をしっかり把握していて理不尽な事を言われても耐え夫を立て尊敬している。
家にお金がないとなれば、声楽の才を活かし、お教室やら学校やらで教えお金を稼ぐ。凄いパワーなのだ。
しかもコツコツお金を溜め、単身ドイツ留学まで実現してしまった。大きな我儘子ども宗悦の猛反対も押し切って、3人の小さな子ども達も任せて。
これを宗悦以外の周囲の人が受け入れ応援してくれたのは兼子夫人のこれまでの頑張りに敬意を表しての事だろうなぁ。
この奥さまは本当に立派で素晴らしい方。朝ドラヒロインになったら共感する人多いだろうなぁ。
…などとつい奥様目線で追っていたので、最後の「坂道」の章は雰囲気が違い、何回も読み直してしまった。
そう、奥さまばかり書いてしまったけれど、このサチ(柳家ではねえやと呼ばれる)も賢く控えめでしかも働き者。
この章では時が流れてたぶん40歳近い年齢になっているのかな。
ネタバレ防ぐため詳しく書きませんが、かの地と宗悦の縁の深さを感じさせるべくこんな設定になったんだろうか?
でもね、最後は嬉しくって自然涙が溢れましたよ。あぁ、よかったなぁって。ねえやも肩の力抜いて幸せになって欲しい。
10代終わりころ初めて訪ねた駒場東大前の日本民藝館にやたら感動した私。
また久しぶりに訪ねたい。
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