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新生姜とひね生姜 噛めば広がる 韓国の苦さ

  • 生姜(センガン)
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  • 出版社:新幹社
生姜(センガン)
 同世代の韓国人と話すと、その子供時代の違いに愕然とする。蛙を取ってびたーん!と道にうちつけ、ざりがにを取る餌にする。たにしやいなごを取って食料にする。「これはまるで私達の親の世代の話じゃないか。」短い間に日本と共同でワールドカップサッカーを開催し、夏冬のオリンピック会場にも選ばれた韓国の成長ぶりは目覚ましい。だが一方で韓国には血なまぐさい歴史があった。

 大学入学を果たしたソニは、美容師の母親と暮らしていた。警察官だった父とは一緒に暮らしていないが、母の話しぶりから彼の事は尊敬していた。ところがある日、大学の友人達との会話から、父親が何をしてきたかを知る。

 
美しくなければならない。美しいものがいつの時も勝利する。完璧な技術こそが真の美というもの。美しい技術。完全な屈服。完璧な勝利。

相手の手の動きや目配せも絶対に見逃すな。すべてはただ一つの目的のために為される。


 冒頭、まるでアスリートの心得のような独白が続くが、そんなきれいなものではない。ここで言う「一つの目的」とは恐怖であり、
完璧な技術を駆使すれば、鉄パイプなどなくとも、ボールペンの芯一本で屈服させることができる。美しい技術とはどういうものか、俺が教えてやろう。
とあるように、彼が語っているのは理想的な拷問技術だ。本作は、反共軍事独裁政権時代に反政府活動弾圧機構の中枢にいた実在の男・李根安をモデルに書かれている。

 俺でなくても、誰かがしなければならないことだった悪の自白を得るためには、悪の力を借りなければならないこちらが打たなければ、むしろやられてしまう

 いつかどこかで聞いた台詞が並ぶ。単なる本人の独白のみにすれば、一方的な自己弁護をただ読者が聞くことになってしまう。よってそれは避け、彼に娘がいたという設定にして、感情表現豊かな彼女を通じて、「現在の韓国」が「過去の韓国」を受け止め咀嚼してゆく過程を描く。それはすなわち一個人ではなく、韓国という国自身に求められている対応でもある。新生姜と老成生姜、それぞれの長所を生かして素晴らしい料理ができるように、老若男女全ての良い所を生かして、素晴らしい未来の韓国が出来あがってゆくことを大いに期待する。
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  • 掲載日:2016/12/12
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