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メロスは激怒した。そしてメロスは推理した。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
  • 殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス
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  • 出版社:KADOKAWA
殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス
あまりにも有名な太宰治「走れメロス」のパロディ・ミステリ。
大筋は原典に沿っている。まっすぐな牧人、メロスは、妹の結婚式の準備のため、シラクス市を訪れる。そこで、暴虐の王ディオニスの悪政に憤り、抗議をしに王宮に行き、捕縛されてしまう。自身の処刑はやむなしと思うが、妹には式を挙げさせたい。そこで旧友セリヌンティウスを身代わりにして王のもとに残し、妹に結婚式を挙げさせ、3日後には戻ってきて罰を受けると言う。王はそんなメロスを嘲笑するが、メロスは必ず戻ると約し、ひた走る。というのが原典。
本作では、そんなメロスの道中で、ともかく何かと殺人事件が起こるのである。
メロスは事件を解決しなければ先に進めず、仕方がなく探偵役を務めることになる。

メロスやセリヌンティウス、ディオニス王といった主要人物は名前もそのままなのだが、妹がイモートア、妹の婿となる男がムコス、その父がギフス、斬殺された男がキラレテシス、目撃者がミタンデスと何だかへなへなと脱力する名前が並ぶ。そこからわかる通り、扱うのは殺人事件ではあるが、そう重苦しい話ではなく、ユーモア・ミステリの部類だろう。

文体も原典に寄せつつもちょっとひねりを入れていてなかなか楽しい。
メロスには政治が分からぬ。哲学も分からぬ。数学も科学も分からぬ。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。それゆえ、
メロスは推理した――。
といった具合。

殺人事件の1つには、太宰が原典を書くきっかけになったともいわれる檀一雄との「熱海事件」も盛り込まれる。何たって事件の関係者は、カズオウスにオサムス、そしてイブセマス(←井伏鱒二)なのである。
・・・いや、何ともはや、なのだが、完全におちょくっているのかといえばそうでもなく、何となく原典や太宰への愛も感じられるような気もする。
太宰ファンが笑い飛ばすかむっとするかはちょっとわからないのだが。

ミステリとしてはトリックやプロットがそう素晴らしいようにも思えないのだが、大きな破綻なく、つるつるっと読ませてしまう筆力はなかなかではないか。ラストは原典と同じく
勇者はひどく赤面した。
で締めくくられる。
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  • 掲載日:2026/04/06
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