その霊、幻覚です。 視える臨床心理士・泉宮一華の噓5

怪異は幻覚として患者をケアする臨床心理士の話
「決闘で亡くなったとされるアレクサンドル・プーシキンは、実は密かに国外に逃れ、アレクサンドル・デュマと名を変えてフランスの作家になった。」なんて話を大学の講義で聴いたら、本気にする学生は……まさかね?
一九九五年,ゴーゴリの小説『鼻』の舞台になったペテルブルグのヴォスクレセンスキー通り三六番地の壁面に、巨大な鼻の石像がすえつけられ、人々の好奇の視線を集めていた。ところが、数年後(二〇〇二年)、ある夜、何者かがこれを盗み出し、隠してしまった。百キロ以上の物をどうして運んだのか、ということも謎であった。小説のとおり鼻が逃げ出したわけで,全都の話題になった。幸いにも一年後に発見され、無事元の位置に戻った。鼻というのは男性のペニスの象徴とも言われており、この付近はペテルブルグの下町で、ゴーゴリの当時はとくに売春宿が密集していた。欲望に耐え切れず鼻は逃走したのであろうと笑い話の種になったという。
プーシキンはナターリヤ・ニコラエヴナとの婚約が決まったとき、彼女に向って、「お前は俺の一〇八人目の女だ」と宣言したと伝えられる。相手が何と答えたかは伝わっていない。同じようにトルストイはソーフィヤ・アンドレエヴナと結婚するに際して、自分の今までの放蕩の数々を記録した日記を読ませた。彼女はそのことを生涯忘れ得ぬ痛恨事と受け止めていたという。
プーシキンの『スペードの女王』において,老公爵夫人アンナ・フェドートヴナは87歳ということになっている。この87は29×3であるが,29は十番目の素数であり、3は二番目の素数であるから、10+2=12、これはカードの十二番目、クイーン(дама)に相当する。すなわち老婦人の年齢が87歳であると言うとき、小説の結末に表れるдама(クイーン)を予告しているわけである。



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