ユキの日記―病める少女の20年





「雨の水たまりに広がる輪を見ながら何を私は考えたか? 忘却に、人々の忘却に私はふさわしいと。」(1953年9月15日16歳の日記)
「まえがき」より ある年、母堂に伴われて病院をおとずれたひとりの婦人に会った。残念ながら、二十八…
本が好き! 1級
書評数:104 件
得票数:1968 票
このサイトの名前どおり「本が好き!」なのですが、それ以上に「酒が好き!」なので、読書より晩酌を優先してしまっています。改めようとは思っているのですが……。
遅読で、遅筆です。
たまに見かけたら、よろしく、一読、してやってください。
(2015年7月9日)





「雨の水たまりに広がる輪を見ながら何を私は考えたか? 忘却に、人々の忘却に私はふさわしいと。」(1953年9月15日16歳の日記)
「まえがき」より ある年、母堂に伴われて病院をおとずれたひとりの婦人に会った。残念ながら、二十八…





「誰かがヨーゼフ・Kを誹謗したにちがいなかった。なぜなら、何もわるいことをしなかったのに、ある朝、逮捕されたからである。」(カフカ『審判』より)
第二次世界大戦。 ルーマニア。 ファンタナ村。 朴訥で正直者の農民ヨハン・モリッツは、ある日、…





「タチハラミチゾーの詩が、なんだかさっきから俺をトリコにしやがる」「悲しみではなかった日の流れる雲の下にってやつだな」「ゆうすげびとは彼のケッサクだね」「甘いがね」「甘いというのはいいものだな」
ゆうすげびと かなしみではなかつた日のながれる雲の下に …





「さっきから、手のひらで優しく揉みほぐしたような柔らかい風が吹いていた。」(35頁)何という素晴らしい風の描写だろう。こころが癒される思いで、そのあとを読み進めました。人前で読まないでよかった。
人は、生まれてきた以上、いつか、死ぬ。 その晩年、 そう遠くはない自分の死を悟った人は、…





当時四十八歳の京極が描く七十二歳の<オジいサン>の一週間。朝起きて、近所を散歩して、アパートに帰る。ただそれだけの話が、なぜこんなに面白いのか……
それは僕が、(前期)高齢者の仲間入りをしたからだ、と思う。 僕も<オジいサン>になりつつあるから、…





ワニに呑まれると、ヒトは何を考えるのだろう
或る夜、いつもの晩酌でいつものように酩酊しはじめたころ、娘がこんなことを訊いてきた。 「お父さ…





「あの頃、わたしはこう思っていました。あなたは魔術師で、魔術師というのはいつも深い孤独をかかえているものなのだと。」(本文より)
<エピグラフ> 「私たちは影でないものなど愛せるだろうか?」(ヘルダーリン) 父親は振り…





「……つぎのしゅんかんにおこったできごとは、わたしが知っている、ただひとつのたしかなことです。……お母さまは、わたしを汽車から外にほうりなげたのです。」(絵本・本文より)
ルース・バンダー・ジーというアメリカの中学校の教師が、1995年に夫と共にヨーロッパを旅行中、ドイツ…





最近、素晴らしい本に出会いました。そこで、おもわず、手紙を書いてしまいました。 作者に・・・? いえ、この小説の主役、エドモン・シャルロさん宛てにです。
拝啓、エドモン・シャルロ様。初めてお手紙さしあげます。 昨年の終わり頃、日本で一冊の翻訳本が出…





バンド・デシネ作家ジャック・フェランデズが初めてカミュの小説を描いた作品です。バンド・デシネはフランスのマンガです。マンガですけど、芸術です。「第9の芸術」として認知されています。凄いですね。
1957年3月、アルベール・カミュの短編集『追放と王国』がパリで発刊された。そのおよそ三年後の1…





ああ、これがDNAだ!
以下の文章は、2007年7月、今は亡き某オンライン書店の書評ポータルサイトに、生まれて初めて投稿した…





「五十でできた一人息子じゃけん、わがまま放題に育てちょる。アホでもなんでもええんじゃ。人の道を間違えんと、元気で大きいなってくれさえすりゃあ、それでええと思うちょる」 大河ロマン『流転の海』第三部。
熊伍の郷里、愛媛から、家族は大阪へ戻る。 昭和27年、伸仁、五歳。 幼稚園中退。 …





この本は、「白バラ」関係の書籍を調べているうちに出会った絵本です。原題は単に『白バラ』です。ひょっとして、フォークの名曲「花はどこへ行った」を意識しての邦題ではないでしょうか。素晴らしい絵本です。
この絵本のそでにはこう書かれています。 第2次世界大戦化のドイツ、「白バラ」という名の少女…





ゾフィーが呟く。「私たちの行動によって何千人もの人々を目覚めさせられるなら、私の死も少しは意味があるかしら?」同室のエルザがいいにくそうに言葉を返す。「でも群衆は臆病なものよ。」(本書149頁)
(「白バラ」については、前回のレビュー 『白バラは散らず』 で簡単に触れていますので、そちらを参照し…





「ハンスは頭を断頭台にのせる前に、大刑務所中にひびく大声で叫んだ、『自由万歳!』と」(本文 看守の報告より)
第2次世界大戦が始まって3年目、1942年6月のある日、ドイツの都市ミュンヘン市街の家々に宛てて、「…





たとえ絶望そのもの、救いのない世界を描いていても、ハインリヒ・ベルの人間や状況に向けるまなざしには暖かみがあります。数十年ぶりに読み返してそう感じました。素晴らしい小説です。
<エピグラフ> 世界の破滅はいろいろ役に立つことがある。神に対して一つの不在証明(アリバイ)を見…





『「泥の河」も「螢川」も、「洟をたらした神」から得た何物かによって生み出された作品であると言っていいくらい、わたしは吉野さんの作品から烈しい影響を受けた。』(宮本輝「不思議な花火」より)
宮本輝の最初のエッセイ集『二十歳の火影』に「不思議な花火」と題された文章がある。自分のことを<百姓バ…





「遠き日の石に刻み/砂に影落ち/崩れ墜つ/天地のまなか/一輪の花の幻」 (原民喜「碑銘」)
きょうは3月13日。 <花幻忌> 六十八年前のこの夜、 ひとりの詩人が…





太平洋戦争の頃、小さな駅のベンチに腰かけ、毎日、誰かを待っている二十歳の女性。毎日、私は誰を待っているのだろう。私は何を待っているのだろう。女性は自問しながら、今日も待ち続ける。
前回レヴューした伊達得夫の『詩人たち ユリイカ抄』のなかに、「発禁の思い出」という短いエッセイが載っ…





戦後間もなく「書肆ユリイカ」を創立、後に詩誌『ユリイカ』を発刊し、その世界では伝説の出版人と呼ばれた男、伊達得夫。40歳で他界した友を偲び、彼が書き残した文章を集めて、<詩人たち>が作った遺稿集です。
伊達得夫。 1920年9月10日、釜山に生まれる。中学まで京城で暮らし、高校は福岡高等学校。 1…