昨年「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んで以来、折りにふれ小川洋子を手に取っている。著者の居住地=自分の地元近くが舞台が多い、というのもあるが、その独特なクローズドの世界と繊細な設定、発想、描写が好きだからでもある。
古びたアーケードの商店街。既製品から切り取ったレースを売る店には、とにどき客に遺髪を持ちこまれる。紙とともに古い、使われた絵はがきをたくさん置いてある店、シンプルな揚げドーナツを売る「輪っか屋」、ドアのノブだけが商品で、ドアを開けると人が座れる窪みのあるドアノブ屋、さまざまな店に囲まれて育った少女の私は配達のアルバイトにいそしむ。父は、火事で亡くなったー。
これまで読んできた長編のほとんどで、主人公が特異な生活をしている。クローズドな空間、なんというか、自分のポリシーやこだわりに沿った、常人の域からは少し外れたような領域を持っている、でも本人にとっては居心地のいい、なくてはならない箱庭のような世界である。それが著者の特徴と捉えている。
舞台となっている最果てアーケードも似たような感がある。ただ、今回は、古い商店を見て誰もが抱いたことのある、どんなお客さんが来るんだろう、何を売って商売が成り立っているんだろう、という好奇心に応える側面と相半ばしている。話を読めば怪しくもなく、真っ当な店と温かい住人たちの話だ。
少女の目を通して見る、まだ狭い、でも懐かしい、昭和の社会とちょっと変わったエピソード。好奇心、ほのぼの感、そして悲劇と孤独感。
設定と、商売と、人情のはざまに横たわる、底知れない喪失感と孤独。とても上手に織りなし編み込んでいる。連作短編は面白いことに長編と変わらないテイストがある。この発想どこから湧くの?と思うこともしばしば。
私的にお薦めの1冊。
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